BTS「原爆Tシャツ」の広がる波紋 歴史認識ですれ違う嫌韓と反日に和解の術はあるのか

2018/11/09 20:00

 BTS(防弾少年団)の「原爆Tシャツ問題」が大きな議論に発展している。アメリカのビルボードアルバムチャート1位を獲得し世界的に人気が広がっているBTS。昨年からユニセフ(国連児童基金)のグローバル・サポーターに就任し、『LOVE MYSELF (私自身を愛そう)』キャンペーンも展開している。世界中の若者たちに向け、「自分自身を愛そう」とのメッセージを込めたスピーチも話題になった。しかし今、日韓関係の悪化ムードとともに、BTSのメンバーであるジミンが「原爆Tシャツ」を着用していたことが問題視されている。

 BTSは11月9日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に生出演する予定だったが、急遽取り止めとなった。テレビ朝日は同番組公式webサイトにて、次のようにBTS出演見送りの理由を説明している。

<11月2日に予告しましたBTSの11月9日放送回でのご出演を今回は見送らせて頂くことになりました。以前にメンバーが着用されていたTシャツのデザインが波紋を呼んでいると一部で報道されており、番組としてその着用の意図をお尋ねするなど、所属レコード会社と協議を進めてまいりましたが、当社として総合的に判断した結果、残念ながら今回はご出演を見送ることとなりました。ご出演を楽しみにされていた視聴者の皆様に深くお詫び申し上げます。>

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BTSの「原爆Tシャツ」騒動の経緯
 BTSの「原爆Tシャツ問題」とは何か。話は2017年のワールドツアーまで遡る。同ツアーの際に、BTSメンバーのジミンが、原爆のきのこ雲と万歳する韓国国民がデザインされたTシャツを着用していたことが「非常識だ」と、今年10月25日付の「東京スポーツ」が伝えた。

 東スポは、その少し前に韓国で<『歴史を忘れた民族に未来はない』防弾少年団、反日にも6年間、堅固な歴史意識>というタイトルの記事が出ていたことを批判。BTSの<“反日活動”が韓国内で絶賛されている>として、BTSメンバーのRMが2013年8月15日に公式Twitterで「今日は光復節。歴史を忘れた民族には未来はありません」とツイートしたことや、ジミンが「原爆Tシャツ」を着ていたことを、<反日姿勢を隠すことがない><あまりに非常識>と糾弾した。

 さらに<韓国は自国の歴史にコンプレックスがある>として、東スポは韓国事情に詳しいという文筆家の次のような“解説”を載せている。

<韓国では日本に対する嫌がらせとして、よく原爆を引き合いに出します。広島・長崎の原爆投下は朝鮮を侵略した日本に天が下した懲罰だと学校で教え、聖職者である牧師や僧侶まで公然と、それを口にします>

<李氏朝鮮が清国から独立できたのは、日清戦争で日本人が多くの血を流して戦ったからです。その日本から独立できたのは、日本の敗戦によるものです。つまり、彼らは一度たりとも自らの血を流して独立を勝ち取ったことがない。インドネシアやビルマといった東南アジアの“小国”でさえ果たした国家の通過儀礼を経験していない。いわば韓国は“童貞国家”と言えます>

「原爆Tシャツ」騒動を一気に広めた高須院長
 日本国内のBTSファンの間でも、この件については意見が割れている。「ジミンは悪気などない」「政治的な意味をつけないで」とメンバーを擁護する声もあれば、「日本が嫌いなんて悲しい」と嘆く声、東スポの論調に同意を示してBTSに憤る声など様々だ。

 そして、「まいじつ」がこの顛末をネットの嫌韓コメントとともに<『原爆バンザイTシャツ』の韓国グループを“紅白内定”したNHK>との記事にまとめ、BTSを年末の紅白歌合戦の目玉にするつもりだったNHKが頭を抱えていると伝えると、高須クリニックの高須克弥院長が同記事のURLを引用して次のようにツイートした。

<これは許すべきではない。放置した韓国政府に謝罪を要求すべきだ。
日本国民は韓国政府にいつも謝罪を要求されるのにうんざりしてる。
韓国政府、我々は我慢の限界だ。謝罪しろ。なう。>

 こうして騒動はどんどん勢いをつけて拡散。BTSの『ミュージックステーション』出演が見送りになったことが発表されると、一部のBTSファンが高須院長のTwitterアカウントに<100%高須のせい消えろ><まじ死ねよ高須>等と暴言リプライを送りつけ、高須院長が当該アカウント勢に対し「謝罪しなければ通報する」と宣告するなど、混乱は広がる一方だ。

 BTSは11月13日よりワールドツアーの日本公演「BTS WORLD TOUR ‘LOVE YOURSELF’~JAPAN EDITION~」をスタートする予定となっている。このワールドツアーは、アメリカ、カナダ、ヨーロッパなど11都市を回る23公演。日本では初のドームツアーであり、東京ドームを皮切りに、年内は大阪京セラドームで3days公演、年が明けて来年1月にナゴヤドーム、2月に福岡ヤフオク!ドームという全9公演を予定している。しかし直前になりこの騒動。果たしてツアーは予定通り実施されるのだろうか。

日本の終戦記念日は韓国にとって「日本の占領から解放されたお祝いの日」
 BTSメンバーの着ていた「原爆Tシャツ」だが、日本人にとっては「原爆Tシャツ」であるが、韓国人にとっては「植民地からの独立を祝うTシャツ」であるという。東スポの記事でも<日本に国を奪われ、日本植民地時代を経て、明るい光を取り戻した日が光復節という説明。光復を迎えて大韓民国国民が万歳を呼ぶ姿。戦犯国日本で発生した原爆投下のシーンなどが盛り込まれている>と触れられているように、日本にとって8月15日は終戦記念日だが、韓国にとって8月15日は独立記念日だ。

 この認識の違いは、日韓のあらゆる確執の中心にあるといえるだろう。慰安婦問題にしろ徴用工問題にしろ、韓国は「日本に理不尽に占領された被害者」との認識だが、一方の日本は「すでに充分な謝罪をしており問題は解決済み」と捉えている。また、日本では「そもそも理不尽な占領などしていない」と歴史修正主義を唱える声も大きくなってきており、対立は一向に解消されない。

 筆者は日本人の立場から、原爆のきのこ雲がプリントされたTシャツは悪趣味だと感じた。韓国人にとっては原爆が戦争を終結させた幸せの象徴なのかもしれないが、原爆により広島・長崎には甚大な被害がもたらされ、一般市民の命が多く奪われた。そのことを踏まえても韓国にとって原爆が「お祝いのイメージ」なのだとしたら、率直に言って引いてしまう。

 その一方で、日本において排他的かつ攻撃的なヘイトスピーチを繰り返す嫌韓の人々にもまったく同調はできない。「韓国人」を十把一絡げに否定したり、在日朝鮮人を差別する態度には憤りを覚える。同様に韓国側にも「日本人」をまとめて全否定する向きはあるのだろうが、それも同じく理解に苦しむ。どちらも相手を侮辱する卑劣な行為で、正当化の余地はないと考えている。

 歴史認識ですれ違い続ける日本と韓国に和解の術はあるのだろうか。両国とも、歴史をめぐる対立に穏当な形で終止符を打ちたいと願う国民はいるはずだ。愛国心が他国への攻撃に結びついてしまうことほど悲しいことはない。それぞれの嫌悪感を煽るヘイト合戦は、互いに疲弊していくだけだ。

最終更新:2018/11/09 20:00
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