無計画さとドラマのようなハプニングが痛快な『お嬢さん放浪記』

2018/09/21 17:00

ojousanhourouki

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

『お嬢さん放浪記』(犬養道子、KADOKAWA)

■概要

 1932年の5・15事件で暗殺された犬養毅・元総理を祖父に持つ、当時27歳の“お嬢さん”がつづった欧米滞在記。まだ自由に海外渡航ができなかった戦争直後に、「家族の援助を受けず、ヨーロッパで学びたい」という夢を大胆な方法で実現し、約10年にわたってアメリカ、オランダ、ドイツ、イタリア、フランス……と各国を巡る。

 1958年に出版され、ベストセラーとなったエッセイの復刊。著者・犬養道子氏は、エッセイのもとになった旅行後、NHKニュース解説員などを務めながら生涯を難民救済に尽くし、昨年96歳で死去した。

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 『お嬢さん放浪記』は、タイトルの通り、戦後間もない時代に、欧米を約10年にわたって縦横無尽に闊歩した“お嬢さん”の旅行記。しかし、旅エッセイというよりは、行く先々でトラブルに対処し友人を増やす、まるでフィクションのような冒険記である。

 「お嬢さん育ちに一本筋を入れたい」と、家族からの資金援助を受けずにヨーロッパで学ぶことを決意した彼女は、足掛かりとして、まずは奨学金制度の豊富な米国に留学し、資金をためることをもくろむ――というプロローグから、全編を通して、彼女が立てる計画は割とざっくりしている。具体的な点は、実行してから行き当たりばったりである。

 奨学生のお小遣いが少なすぎたことから戦後の日本人の現状を語る講演会を開いて稼ぐことを思いつき、結核を発症して入院することになればサナトリウム(療養所)でレース編みの内職を始め、人気を集めすぎて警察に目を付けられる。シカゴではスラムの中にある養老院に宿泊し、オランダでは洪水に遭遇し復興を助け、フランスでは、軽い気持ちで各国の留学生が助け合えるサマーキャンプを企画し、無資金のまま、最終的に資産家からお城を半永久的に利用できるよう取り計らってもらう……などなど、本人の旺盛な好奇心と行動力で周りを明るくし、たびたび起こるハプニングをドラマのように乗り越えていく。

 彼女のトラブル対処法は、時に正攻法とはいえない。凡人なら「そんな計画がうまくいくはずがない」と頭の中で打ち消してしまうような大胆な方法を実行して、難局を軽やかに飛び越えていく。さらに、そんな彼女に手を差し伸べてくれる人も不思議と次々と現れる。おそらく、それは彼女の真っすぐな性格や、誰と出会っても萎縮せず、かつ見下すこともない態度、教養あってのものではあるだろう。著者はそれを「友情のパスポート」と呼び、「共通なはだかの人間性に触れようとしてゆく限り、どんな未知の国に一人で行っても自分は一人きりではないのだ、(略)『友情のパスポート』はどこにでもある、どこに行っても探せば必ずみつかるのだ」とつづる。

 戦後間もない時代の特性もあり、現代では同じように進むわけではないだろう。しかし、もしかしたらどんな計画も実行に移してみれば、頭で考えているよりもなんとかなるのかもしれない。頭でっかちで、“石橋を叩いて叩いて渡れない”タイプだと自覚している人ほど、本作での彼女の屈託ない行動力に、魅了されるはずだ。

(保田夏子)

最終更新:2018/09/21 17:00
お嬢さん放浪記 (角川文庫)
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