50代女性を次々に襲う体調不良を支えた夫の「僕の一番はなにがあっても君」という姿勢

2018/09/09 20:00

 長引く風邪、半年以上続く下痢、白内障、口が開かなくなる、めまい。突如襲った様々な症状に不眠も重なり「自分の体が壊れていく」と恐怖を感じた美奈代さん(52)。内科では原因がわからず、大腸検査をしても異常はなかったが、体調は改善しない。さらに突然めまいに襲われ耳鼻科に行くものの、原因はよくわからなかった。
 ある朝のこと。回転性のめまいが何度もおき、ベッドから起きられなくなってしまった美奈代さんは救急外来へ。CTを撮ったあと、医師からめまい専門の病院に行くことをすすめられる。

めまい外来で<良性発作性頭位めまい症>の診断を受けて
――めまい専門の病院に通院することを決められたとのことですが、めまいが酷いと通院も大変でしたでしょうね。
 「電車に乗るのが怖かったです。電車が入ってくると、ふわっと巻き込まれるような感覚になるんです。階段を降りるときもめまいが酷くなります。ちょうど息子が大学4年生で就職も決まっていて時間があったので、通院に付き添ってくれました。夫も会社を休んだり、半休をとってよく付き添ってくれました」
――ご家族は美奈代さんの病状を心配されていたんですね。めまい外来に通われて症状は安定しましたか?
 「はい。めまいをなおす施術というものがあるんです。簡単に言うと、耳石を正常な場所に戻す施術です」
――そこでは良性発作性頭位めまい症、という病名がついた。
 「そうです。『眠れないと人間は耳石がはがれやすくなり、それでめまいが起きる』と、先生からうかがいました。今思い返すと、この頃が一番辛い時期だったように思います。なんとか不眠を解消しようと、寝具を変えてみたり。体を動かしたほうがいいかと思い、ふらふらしながらも朝晩のウォーキングをしてみたり。病院で教わっためまいを改善するための体操も行っていました。頭痛もひどく、物忘れがおきるようにもなりました」
――睡眠導入剤を服用したりは?
 「今年の2月から飲むように。でも飲むと頭がカーっと熱くなり、よけいに眠れなくなるんです。急に汗をかいて、食欲も落ちていきました。そこで初めて『あれ? これってホットフラッシュ?』と」
――それまでに、この不調は更年期のせいかもしれない、と考えたことはなかった?
 「今年の2月にホットフラッシュのような症状がでるまでは、体の不調と更年期はまったく結びつかなかったです」

更年期特集のテレビ番組に、自分とよく似た症状の人が
――ホットフラッシュを実感したことで、ほかの症状も更年期かもしれないと。
 「ちょうど同じ頃に朝の情報番組で更年期の特集をしていたんです。それを見ていた娘が『お母さんの症状にそっくりだよ!』と。画面に<女性の健康とメノポーズ協会>の電話番号が出ていて、メモしてくれたんです」
――NHKの『あさイチ』ですね。あの番組の性ホルモン特集は毎回大きな反応があるようです。
 「すぐに電話をして、協会の方にこれまでの症状を説明しました。そして、近くの更年期専門のクリニックを紹介してもらったんです」
――それで今年の2月からHRT(ホルモン補充療法)をスタートさせた、というわけですね。ホルモンを補充することで、不調は軽減しましたか?
 「ピタっとなくなりはしませんでしたが、だんだんとよくなっていきました。閉経していますが、HRTを行うことで生理のような出血が毎月起こりますので……。出血が起きる度にめまいや口の渇きなどがよくなってきたと感じられました」
(注)HRT(ホルモン補充療法)

 更年期世代になり減少したエストロゲンを、飲み薬やパッチやジェルなどの薬を用いて補う治療であり、治療によって40代半ばのエストロゲン量になるように設定される。なお、HRTを始めるためには医師による診断と処方が必要である 。
――不眠はどうですか?
 「不眠だけはまだ……。いまも時々、1時間半程度しか眠れない日があります。最初に測ったFSHの値が118と高くって。先生は『この数値が低くなれば眠れるようになるから、そこを目指して治療を頑張ろう』とおっしゃってくださってます。いまも睡眠薬を飲んでいますが、減薬を始めています」

※FSH(卵胞刺激ホルモン)の閉経期の基準値は25.8~134.8 mIU/mLである。
――先ほど、物忘れがあったとおっしゃっていましたよね。更年期の症状で物忘れを訴えられる方はたしかに多いようです。
 「寝てないからなのか、更年期だからなのか。どちらが原因なのかはいまもよくわからないのですが。物忘れと集中力の低下がありました」
――たとえばどんな症状が気になりましたか。
 「本屋さんに行くのが大好きで、読書は欠かしていませんでした。でも不調が出はじめてから、細かい字が読めなくなり本から遠ざかるように。あとは、料理ができなくなりました」
――料理を作るのが面倒になった、という感じですか?
 「面倒だという気持ちではないんです。たとえば……切った野菜などを包丁にさっと乗せて、お鍋に入れる。以前はなにも考えずにできた動作ですが、それができない。お鍋から、お皿や小鉢に料理をよそうというのもダメ。大きいほうから、小さいものに移すのが難しいんです。どこに落とせばいいか、落としどころがわからない。夫が『頑張って作ってくれるだけで嬉しいよ。仕事から帰って僕が全部お皿に盛りつけるようにするから、そのままにしておいて』と言ってくれたので、甘えました」
――それまで何の苦も無くやっていたことが、突然できなくなるのは不安ですよね。
 「家の片づけも趣味だと言えるほど好きだったんですけど、できなくなりました。できなくなるというより、途中で自分がなにをしていたのか忘れてしまうんです。家の中のいろんなものが出しっぱなしになったり、洗濯ものも干さずに置きっぱなしにしたり。散らかった家を見て夫が『泥棒に入られたかと思った』と驚いたこともありました」
――部屋が散らかっても、料理ができなくても、ご主人は一切美奈代さんを責めることはなかったんですね。
 「何か変だなと思いはしても『ちゃんとしろ』『しっかりしろ』など、そういうことは一切言わない人です。少し歳が離れているからでしょうか、私が物忘れや集中力がなくなったときも『年取ったらみんなそうなっちゃうんだよ、僕も最近物忘れするんだから、いいよいいよ』と言って、いつも見守ってくれています」

結婚して30年。いまも出かけるときには手を繋いで
――愛情深いご主人ですよね。
 「あの、ちょっと照れる話なんですけどね。実は主人は手を繋いで歩きたい人で。結婚して30年ですが、いまも手を繋いで歩きます、子どもの前でも」
――素敵! お父さんとお母さんが仲良しだと、お子さんも早く結婚したいとおっしゃるんじゃないですか?
 「よくそう言ってますね。主人は、子どもにしょっちゅう話すんです、『君たちとは血が繋がっているし、とても大事だよ。でも僕の一番はなにがあってもママで、それは絶対に変わることはないからね』って」
――あぁ、なんだか歌の歌詞みたい……。
 「そうなんですよ(笑)。SMAPの『らいおんハート』って曲ありますよね。テレビから流れたあの曲を聴いていた子どもが、歌詞を指さして『パパみたいなこと言ってる』と言ったことがあったんです。そしたら夫は『違う、僕はもっとずっと前から言ってるんだから!』とちょっとムキになってたぐらい。キムタクに対抗しているのかしら(笑)」
――まさに、美奈代さんを守るために生まれてきたご主人(笑)。でもほんとに更年期はご家族、とくにご主人の理解がとても重要だと思うんです。更年期について深くは知らなくてもいいけど、少しは知識を持ってほしい。知っているのと知らないのとでは、奥様になにかあったときに大違いですから。
 「主人は私が不調を訴えはじめたときに『体のことはお医者さまにお任せして、メンタルの部分は僕がフォローするから』と言ってくれました」
――1番近くにいる人にそう言ってもらえるのは心強いですよね。閉経されたときにはご主人に話しました?
 「はい。生理が乱れ初めてから閉経、体調の変化、すべて夫と子どもには包み隠さずに」
――不安や辛い思いを家族に全部口にできていた、というのは大きいと思います。物忘れや集中力の低下はHRTをして改善されましたか?
 「いまはほぼ日常に戻りました。HRTを始めて半年経ちましたが、最近めきめきと自分が元に戻ってきたような感覚があります」
――それはホントによかったです! 美奈代さんに起こった症状の全てが、更年期が原因かどうかは今となってはわかりませんが……あとは不眠が解決することをお祈りしていますね。今日はありがとうございました。

最終更新:2018/09/09 20:00
アクセスランキング