インタビュー

アジアン・隅田美保、テレビ復帰――「女芸人のブスいじり」は絶対的な悪なのか?

2018/09/10 18:45

ビートたけしと吉本新喜劇――ブスいじりの背景

 いつの間にか、“当たり前”のものとなっていた女芸人のブスいじり。瀬沼氏も「久本雅美、オアシズ、森三中、ニッチェの江上敬子、ハリセンボン・近藤春奈、尼神インター、フォーリンラブ・バービー、たんぽぽ、ゆりやんレトリィバァなどなど、ブスいじりをされる女芸人はたくさん挙げることができます」と現状を話す。そもそも、なぜこうした笑いの取り方が盛んになったのだろうか。

「ビートたけしさんが関連していると思います。たけしさんは80年代に、『タブーを笑おう』という内容の漫才をよくやっていて、『ブス』や『年寄り』を笑いのネタにしていたんです。そこで、世間の人たちが、表でも堂々と『タブーを笑う』ことを知ったのではないでしょうか。たけしさんは“ブスいじりのバックグラウンド”を作った人とも捉えられますね。もう1つは、吉本新喜劇の影響です。ここでは、ブスいじりが伝統となっており、元祖となった女芸人は定かではないものの、私が調べたところでは、1960年代に活躍した藤里美さんや楠本美枝子さんは、三枚目役として容姿をいじられていたようです」

 吉本新喜劇の生みの親・八田武男氏は「大阪の笑いは、ぶっちゃけたところにある」という考えの持ち主だったそう。そのため「年寄いじり、容姿いじりを積極的に行う芸風になったのでしょう。吉本が90年代に全国化していく中で、テレビそのものに吉本ノリが広がり、ブスいじりが盛んになったと思われます」という。確かに吉本芸人が、“容姿をいじる”もしくは“いじられる”といったシーンをテレビで目にする機会は多く、ある意味、伝統芸として受け継がれてきた側面もあるようだ。

「女芸人は同性ウケ狙い」が変化しつつある

 瀬沼氏いわく、2000年頃から、女芸人のブスいじりの流れが変わり、容姿そのものを「ブス」といじるのではなく、“キャラとしてのブス”をいじる面が強まっていったという。

「『自称ブス』『自分ではブスを認めていないブス』『ちょいブス』『一般的にはかわいいのにブスを演出するブス』『ブスだけどブスを見せないブス』など、さまざまな立場のブスがテレビに登場し、ブスが“キャラ”になっていった印象です。いじる方は、その人そのものではなく“キャラ”をいじり、いじられる方も“キャラ”をいじられるので傷つかない。そういうふうに、お互い予防線を張りながら、キャラとしてのブスいじりで、トーク番組を盛り上げていったのかなと見ています」

 最近、人気を博す女芸人も、基本的に「キャラをどう見せるのか?」という笑いの作り方をしているのではないかと瀬沼氏は考察するが、一方である変化も見えるという。

「よく言われるように、お笑い業界は圧倒的に男性芸人が優位。見る側の男性も『女芸人より男芸人の方がレベルが高い』といった見方をしていたと思うんです。そんな中、かつて女芸人は、いかに“同性から共感の笑い”を得られるかを重視してきました。例えば、女性のあるあるネタだったり、飛び抜けて痛い女を演じてみせたり……といった感じですね。しかし最近の女芸人は、ブスキャラを演じながら、男女関係なくウケるネタを作っているように思います」

 その例として、相席スタートの山崎ケイ、おかずクラブなどが挙げられるそうだ。

「山崎さんは、“ちょうどいいブス”を自称し、男と女のマウント取りの面白さ、女性が男性を転がす様子の面白さを表現していますし、おかずクラブは、“自分の容姿を意識はするけど、ブスであることは認めない”という自意識過剰なブスキャラを演じつつ、男性の下心をうまく突くネタを披露しています。このように、女芸人が“同性だけではなく、男もイジっていく”というネタは、男性も面白さを感じるのではないでしょうか」

NAOMI (ヨシモトブックス)
雑なブスいじりをやってる一般男性が一番寒い
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