[女性誌速攻レビュー]「ar」9月号

「80年代のミポリン」の唇を猛プッシュ!! 読者を置いてけぼりにする「ar」流モテメイクの奇跡

2018/08/30 16:00

突然の「日経ウーマン」感

 メイクページの「キラキラキララ~~」なテンションから、一気に現実に引き戻されたのが、読み物ページ「目標があればできる! お金の貯め方」です。「将来が不安だからという理由で貯金するより、夢や目標のための貯金のほうが楽しい!」という前提は「ar」らしいのですが、4つのケースの収入・支出表にファイナンシャルプランナーがアドバイスするという内容は、「日経ウーマン」(日経BP社)のそれと何ら変わりません。

 また、紹介される4にんの女性のうちの「ケース4」D子さんが、平日は人材系会社人事部で働き、週末は家庭教師と通訳の副業、さらに目標は「趣味の一眼レフカメラを買うこと」であるという設定が気になりました。D子さんは一体、いつ休んでいるのでしょう。生命保険は月に5,100円のコースに入っているようですが、体に気を付けてほしいです。

北川悦吏子も真っ青のポエムに拍手

 今号で最も心つかまれたページ、それが「エライザはまだ帰りたくない 夏の終わりの黄昏デート」でした。池田エライザがモデルを務め、デート服を紹介するはずの全8ページの企画なのですが、写真が全部ピンボケしているのです。服が見えません。「あれ、ちょっと見えにくいかな?」のレベルではありません。ほとんどエライザのシルエットしか見えない写真もあります。インスタグラムやTwitterで散見される、「いい感じのピンボケ」「いい感じに暗めの彩度調整」「いい感じに青が強めの色彩調整」全部乗せといった感じで、「夏の終わりの黄昏」のノスタルジーを、誰にでもわかりやすく表現しています。

 そのボヤボヤ写真に添えられるのは、「夕立が止んだ後の雨の匂いが好き」「売れ残った花火を買って10分だけ花火をした」「このまま夏が続けばいいのに」などといった文章。書店で最近よく見かけるTwitter発のポエム集(主にKADOKAWAが出版)に載っていそうです。写真にもポエムにも、“調子の悪い銀色夏生”感があふれています。

 しかし、これをファッション誌でやり遂げたところに、心をガッシリつかまれてしまいました。たとえ肝心な服が見えなくても、自分たちの信じる世界観を徹底して優先する。その世界観を信じているからこそ、照れや逡巡が入り込みそうな隙や逃げ場は排除する。そこに「ar」魂を見ました。朝ドラ『半分、青い』(NHK)の脚本家に、「ar」編集部の爪の垢を煎じて飲んでほしいほどです。同じようなポエム台詞を連発しているのに、こちらは世界観ブレブレで迷走中、さらにTwitterで言い訳たらたらなのですから。
(島本有紀子)

最終更新:2018/08/30 16:00
ar 2018年 09月号
ミポリンの居場所は「ar」にあった……
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