[官能小説レビュー]

官能小説家による「セックスを書かない作品」の楽しみ――『ジェラシー』が描く近未来世界

2018/08/27 19:00
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『ジェラシー』(実業之日本社)

 今回は、趣向を変えて、官能小説家の「官能小説ではない作品」をご紹介しようと思う。官能小説家というと、一般文芸を執筆している小説家とは一線を画して捉えられる場合が非常に多い。「セックスを書く」という行為は低俗だと捉えられてしまうからだ。

 これまで筆者がサイゾーウーマンにてインタビューをしてきた官能小説家たちのほとんどが、世間から感じている「見た目」を把握していて、それでもなお堂々と「官能小説家」という看板を掲げて執筆を行っている。

 しかし、セックスを書くという行為は本当に蔑まれなければならないのだろうか? 官能小説家に対して穿ったイメージを抱いている方は、ぜひ今回ご紹介する『ジェラシー』(実業之日本社)を読んでいただきたい。官能小説界で不動の人気を誇る草凪優氏が書く「官能小説ではない」単行本の第2弾である。

 舞台は20xx年。かつては煌びやかであった日本はすっかり荒れ果て、ゴーストタウンと化してしまった。あらゆる食事もフェイク化し、サプリメントで1日の栄養を摂取するような時代に、主人公である清春は生きている。幼い頃からリーダー的気質を持ち合わせている反面、一度キレたら手をつけられない男だ。

 風俗店のオーナーをしていた清春の元に現れたのは、美麗の才女・冬華である。彼女はとあるビジネスを持ちかけるために清春の前に現れた。留学先のアメリカでその存在を知ることになった、セックス・アンドロイド<オンリー>を売るビジネスである。

 <オンリー>は、完璧なアンドロイドであった。瞳を合わせれば恥じらうように瞼を伏せ、頰を紅潮させて清春を導いた。生身の女が発するような甘ったるい汗の匂いを放ち、清春のテンポに合わせて絶妙なタイミングで腰を振る――これは、売れる。確信した清春は冬華と手を組み<オンリー>を売り出す会社を設立した。清春は<オンリー>をデリバリーする風俗店を任される。<オンリー>の素晴らしさは口コミで広がり、爆発的な人気が出て、依存症になる男たちが続出する。冬華が代表となる<オンリー>を扱う会社「ヒーリングユー」に、清春の双子の兄弟である純秋を迎え入れ、本格的に<オンリー>を売り出す体制を整える――。

 主人公の清春、双子の純秋、冬華とその姉である千夏という、4人の男女の性が、荒れた東京を舞台に交錯する。

 官能小説界の第一線で活躍している作者が一切の性描写を排除して描いた本作は、目まぐるしいほどエンタテインメントにあふれていて、読者の心をグイグイと強く牽引する。官能小説家という存在を斜に見ている方は、ぜひご一読いただきたい。優れた筆力と巧みなストーリー展開に圧倒されるだろう。
(いしいのりえ)

最終更新:2018/08/27 19:00
ジェラシー
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