【特集:目黒事件から改めて虐待を考える】第2回

児童相談所の権限強化や警察との全件共有は、本当に救える命を増やすのだろうか?

2018/08/16 19:00

子どもの命を守るために、適正な手続きが必要

 結愛ちゃん事件を受け、政府は7月に児童虐待の緊急対策を発表した。虐待通告から48時間以内に面会などによる安全確認ができなかった場合は立ち入り調査を実施する、児童福祉司を4年で2,000人増員する、などの対策が決定された。宮島さんは「これ以上の子どもの死を防ぐために体制を強化するとしたことには大きな意義がある」と評価している。

 しかし、現在約3,200人の児童福祉司を2,000人増員することに関しては、「実際にはそれでも追いつかない。本来は数倍の増員が必要」とした上で、「現場では専門性や経験が問われるケースが圧倒的に多い。人材をどう育てるのかというのが真の課題だ」と話す。

 また48時間以内の「対面」については、「子どもに会えないことは危険です。しかし、子どもに会えたからといって、安全だとは言えない」といい、「職員が『子どもに会えた。傷がないから大丈夫』と判断した。その後に子どもが死亡したケースは何件もあります」と危惧する。大切なのは、「きちんと話を聞くこと」と「複数回の面談を行うこと」。当たり前だが、身長や体重といった子どもの成長には個人差があるため、1回会っただけではその子が衰弱しているのか、そもそもやせ型なのか、判断はつかない。「複数回会って、きちんと話を聞くことができるかどうか。住民票の記載や健診記録などの確かな情報と照らし合わせて、その内容を吟味する。必要に応じて継続的な関わりを持ち、変化を見る。そこで生じている問題を見逃さないことが大事です。死亡事案は、生じている問題やその悪化が見落とされた場合に起きるのです」。

 対面することも大事だが、宮島さんは“初めて児相職員に訪問された家族”に対する対応もトレーニングすべきだと提言する。「ある日、いきなり『児童相談所です』と訪ねて来られたら、家族は怖いし警戒するでしょう? それに職員としても、玄関先で聞ける情報の質や量は限られてきます。できれば中に入れて座らせてもらって話を聞くのが大事。そのためには、周囲に聞かれる可能性がある玄関先でどう名乗るべきか、どういうふうに対応すればいいのか、状況別にトレーニングする必要があります」。

 今回の政府対策では、48時間以内に対面での安全確認ができなかった場合、児相は原則として立ち入り調査を行うこととされた。子どもの命を前にすると、世論は児相に対しても「力の行使」や「警察との協力」を求める方向に傾きがちだが、「権力行使は、適正な手続きと説明責任が伴うもの。虐待事案ならそれだけで力を行使していいという方向は危うい。児相がどうやって子どもの命を守るかといったら、法によって守るんです」と警鐘を鳴らす。

警察との全権共有はなぜ危ういのか

 結愛ちゃん事件を受けて、オンライン署名サイト「Change.org」には「児童虐待八策」というキャンペーンが掲載された。そこでは、「児相や職員の増加や常勤弁護士の設置」「親支援と介入・救出の部署を分けるような児相の組織改革」などのほか、「虐待通告の警察と全権共有」を求めており、約10万人が署名。さらに7月には、大阪府が警察との全権共有の実施を発表した。

 宮島さんはこれに反対を唱えた上で、その理由を「虐待は多様です。全権共有を求める人は、“3~5歳の幼児をしつけと称して身体的な暴力を振るう悪質な親がいる”というストーリーが、あたかも虐待の典型例だという前提なのでしょうが、それはごく一部でしかない」と語る。

 第1回でも解説したように、虐待死の被害者の57%は0歳児で、そのうち月齢別にみると0カ月が43%となっている。宮島さんは、「0歳~1歳の乳児に対する身体的暴力は『赤ん坊をどうしていいかわからない』というパニックや、産後うつ、育児ノイローゼによるもの。これを警察で全権共有したところで防げるかは疑問。逆に共有することで親を追い詰めることになりませんか? 10代で周囲に妊娠を打ち明けられなかった事例や、または20代で経済的問題があってホームレスとなり、マンガ喫茶で出産したなどの事例は、まず病院で出産できるようにすることが虐待死の予防になる。虐待にはそういった多様なケースがあり、単純化されたストーリーに基づいた対策では救えないのです」という。

虐待・親にもケアを
加害者の親を責め続けても虐待はなくならない
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