【特集:目黒事件から改めて虐待を考える】第3回

悲しいことに結愛ちゃんが書いた「ゆるして」は珍しくない……子どもへの暴力を認めている日本の現状

2018/08/18 19:00

「暴力や支配による子育て」からの脱却が虐待予防に

――禁止するどころか、民法822条では「監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」と、懲戒権を認める形になっています。

高祖 法で禁止をしてない結果、「しつけのつもりだった」と子どもが命を落とすケースが多い。「叩く」という選択肢があると、それがエスカレートしてしまう可能性がある。大人の場合、AさんがBさんを一方的に殴ったら警察沙汰や暴行罪となる可能性があるのに、家の中で親が子どもを殴っても無碍になるのはおかしい。私は常に「子どもを威圧してコントロールするような子育てはやめましょう」と呼びかけています。

――自分が支配的な親子関係で育ったから、子どもに対しても高圧的になる人も多いと思います。

高祖 今の親世代には多いですね。私が編集長を務めている育児のフリーマガジン「miku」で行ったアンケートでは、「子どもを叩いてますか」という質問に、6割の人が「叩いてる」と回答し、「あなた自身は叩かれたことありますか?」には、8割が「ある」と答えました。親から叩かれる子が減れば、親になったときに自分も子を叩かずに育てていける人が増えるでしょう。

――「叩かない子育て」が虐待を予防する土壌となりそうです。

高祖 「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」のアンケートで、子どもがいてもいなくても6割の人が体罰を容認しているということは、騒ぐ子どもを見て、「こんなに言うことを聞かないのに、なんであの親は叩かないの?」と見ている人もいるということです。だからこそ、法律で「子どもへの暴力や体罰は禁止」と明記することが必要。子育てをしていると、「静かにさせろ」「うるさくするな」と周りからの目が刺さることがあります。親だけががんばるのではなくて、「そのぐらいの年齢は騒いじゃうんだよね」と声をかけるなど、「見守る」社会だと子育てしやすくなると思います。虐待傾向にある親は、周囲とつながりが薄い方が多いので、孤立してしまうことが危険です。

――子育て中は親が必要以上に社会に対して負い目を感じてしまいがちなので、さりげない一言で救われることも多いです。

高祖 虐待で命を落とす子のニュースでは、その子の笑顔の写真が映されることも多いでしょう? あの笑顔は、パパやママに向けていたはず。愛情を持って育てられていたときもあったのに、「親の言うことを聞かない」とか、「夫に威圧的に言われて、私もそれに合わせなければいけない」とか、なにかしらのストレスがかかって、心のバランスが崩れたのかもしれない。子どもへの体罰をノーとする社会の風潮があったり、自分の気持ちを漏らせる相手がいたりすれば、ストレスがあっても方向修正できると思うんです。

※1 厚生労働省発表の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第13次報告)」によると、心中以外の虐待死の場合、最も多い子どもの年齢は0歳児(57%)で、主たる加害者は「実母」が50%だった

※2 厚労省の第13次報告では、動機として一番多いのが「保護を怠ったことによる死亡」で、二番目は「子どもの存在の拒否・否定」「泣きやまないことにいらだったため」と同数で、「しつけのつもり」だった

高祖常子(こうそ・ときこ)

育児情報誌「miku」編集長。保育士、幼稚園教諭、社会教育主事(任用)、ピアカウンセラーの資格を持ち、NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」の理事、NPO法人「子どもすこやかサポートネット」の副代表などを務める。育児誌を中心に編集・執筆を続けながら、講演活動、ボランティア活動も行う。

最終更新:2018/08/18 19:00
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