【連載】オンナ万引きGメン日誌

認知症患者の万引き癖、罰金の腹いせに放尿……「老害」に悩まされるGメンの葛藤

2018/07/28 17:00

都合の悪い話は聞こえない90歳の常習犯

 そうは言っても、スーパーなどにおける迷惑客の代表格といえば、いつだって万引き常習者です。昨今の現場は、若い子より高齢者による犯行が増えていて、懲りずに再犯を繰り返す人が絶えません。つい先日も、いくつかの商品を持参のレジ袋に隠したまま風防室に設置されたベンチに座り、未精算のおにぎりを取り出して噛りついた90歳のおばあちゃんを捕まえました。

「Sさん、こんにちは。お金を払う前に食べたらダメですよ」

 実は、このSさんを捕まえるのは6度目のこと。なので、住所や名前、生年月日、さらにはガラウケ(身柄引き受け)にくる娘さんの名前までも、報告に必要な人定事項は全て私の記憶に刻まれているのです。

 初めてSさんを捕まえたのは、昨年末のことでした。迎春ムードに包まれた店内で、イチゴ、カズノコ、カニ缶、鏡餅など、およそ3,000円相当の商品を自分のバッグに隠して盗んだのです。この時は、いくつかの前歴が判明したこともあって簡易送致となり、店長から出入禁止処分を通告されて終わりました。盗んだ鏡餅を飾って新年を迎えるなんて、とんでもないお婆さんだと、顔見知りの警察官と顔を見合わせて苦笑したことを思い出します。

 それから毎月欠かすことなく、私に捕まることで犯歴を重ねたSさんでしたが、高齢者万引きは、なるべく穏便に済ませたいのが警察の本音です。警察は、これまでに何回か厳重注意で済ませて、娘さんが迎えに来ることを条件に放免していました。しかし、短期間に犯行を繰り返されては、警察の立場もありません。5回目の捕捉で初めて、ついにSさんは逮捕されることになりました。

「なんであたしが、こんな目に! あたしが何をしたって言うんだよお」

 みんなに大事にされるはずであろう90歳超えのお婆ちゃんが、腰縄と手錠を打たれた状態で喚き散らしながら留置室に入れられる姿は衝撃的で、見ていて、とてもつらかったです。

 結局、その後の取調で室内を徘徊し続けたSさんは、担当の刑事さんに行為能力を疑われて病院で診察を受けることになりました。そこで軽度の認知症だと診断されたため、警察は拘留に堪えられないと判断。またしても娘さんのガラウケを条件に、まもなく釈放されました。Sさんに会うのは、その日以来のことで、今日の警察対応が気になります。

「これからお金を払うつもりだったんだよお。まだ店内だから万引きじゃない!」

こんな言い訳ができる人が認知症だとは思えませんが、長い時間話していると話の整合性がなくなるので、きっとそうなのでしょう。

「そんなこと、どこで勉強してきたの? そもそもお店に来ちゃダメだって、何度も言われてるじゃない」
「え? なんだって? もう耳が遠くて、全然聞こえないんだよお」

 自分に都合の悪い話は聞こえないようで、出入禁止を通告されても気に留めることなく、毎日のように来店しては万引きしていくので捕まえるほかありません。ほんの1年足らずの間に、私の手により6回も捕まった人は、この人が初めてです。今回の被害品は、さくらんぼとかりんとう、にぎり寿司(12貫入り)、おにぎり(うめ)の4点で、被害合計は1,500円ほどになりました。

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