“噂の女”神林広恵の女性週刊誌ぶった斬り!【第420回】

男尊女卑や性暴力、女性の人権に対する日本人の民度を検証する「女性自身」

2018/07/10 21:00
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「女性自身」7月24・31日合併号(光文社)

下世話、醜聞、スキャンダル――。長く女性の“欲望”に応えてきた女性週刊誌を、伝説のスキャンダル雑誌「噂の真相」の元デスク神林広恵が、ぶった斬る!

麻原彰晃ら7人の死刑が先週金曜日に執行された。人数といいタイミングといい異様なものだが、日本世論にはむしろ歓迎ムードさえ漂っていたことも異様だ。しかも、先進国の多くが死刑廃止に舵を取る中、今回の大量執行でも死刑制度についての議論さえないとは――。

第420回(7/5〜7/10発売号より)
1位「伊藤詩織さん 『バッシングに耐えきれず昨秋移住。英国では告発に激励メールが殺到!』」(「女性自身」7月24・31日合併号)
2位「人生100年時代の『女性の生き方』対談 勝間和代『もう我慢しない。自分のしたいことを!』 香山リカ『LGBT告白も、その表現なんですね』(「女性自身」7月24・31日合併号)
3位「ベッキーCM会議で飛び出した“厳しい”ひと言」(「週刊女性」7月24日号)

 先月28日、イギリスBBCが放送した伊藤詩織さんの密着ドキュメンタリーは大反響を呼んだが、これを「女性自身」があらためて特集している。

 ジャーナリストの山口敬之氏からの準強姦被害を訴えた伊藤さんが、バッシングにより身の危険を感じ、イギリスに移住を余儀なくされたこと、またドキュメンタリーの放送後、イギリスの視聴者から数百件の激励があり、逆に誹謗中傷は一切なかったことなどが番組内容とともに紹介されている。

 このドキュメンタリーが『日本の秘められた恥』と題されているように、確かに日本ではレイプ告白をした伊藤さんへのセカンドレイプ的バッシングが巻き起こった。それだけでなく、このドキュメンタリー放送後も伊藤さんやBBCに対するひどい罵詈雑言がネットで飛び交ってもいたのだ。

 まったくもって、この国の男尊女卑や性暴力、女性の人権に対する民度の低さには愕然とするが、イギリスでは真逆だという事実に勇気付けられる。さらに「自身」記事で注目すべきは、伊藤さんをネット番組で非難し、BBCのインタビューにも答えた衆院議員の杉田水脈氏をクローズアップしていることだ。

 BBCで杉田氏は「女として落度がありますよね」などと、相変わらずの伊藤さんバッシングを繰り広げていたのだが、「自身」記事では人権問題に詳しい武井由起子弁護士が、杉田氏の言動を分析している。それが極めて正論で痛快なのだ。武井弁護士は、まず日本のジェンダーギャップ指数が144カ国中114位と極めて低いことを指摘した後、こう語っている。

「男性優位の日本社会で女性が認められるためには、自分を押し殺し、男性以上に男性の主張を代弁するような存在にならなければいけなかったのでしょう。そういう意味では、杉田議員はかわいそうな女性です」

 また武井弁護士は、“飲酒してレイプされたら女性の落度”などという考えを持つ国会議員は大問題であり、また伊藤さんの事件が起訴されなかった背景には、日本の司法の体質があること、そしてレイプ犯罪の立件が困難な構造的理由を指摘し、「こうした問題点を、杉田議員は認識していないのでは」とバッサリぶった切った。

 爽快である。そもそも勇気をもってレイプ被害を警察に訴えたにもかかわらず、政治的圧力によってもみ消されようとしたのが、このレイプ事件だ。それに対し、伊藤さん自身が必死に調査した上で、その被害を告白した。そうした女性に「女として落度がある」などという女性国会議員が存在していることが驚きであり、それこそが日本の“恥”なのだから。

 伊藤さんの事件が国際社会に広く放送されたことで、杉田氏の言動が“恥”として非難され、一方で伊藤さんの行動に称賛の声が集まる。それをあらためて検証し、日本の病理をクローズアップした「自身」。男性週刊誌では絶対“できない”ではなく“しない”良質な記事だった。

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