伊藤詩織氏のドキュメンタリーでBBC が映し出したのは、性暴力を軽視しすぎる日本社会の現状

2018/07/03 20:00

 6月28日、BBCの英国向けテレビチャンネルBBC Twoにて、ジャーナリスト・山口敬之氏からの準強姦被害を訴えている伊藤詩織氏を取り上げたドキュメンタリーが放送された。直訳すると「日本の秘められた恥」と題されたこのドキュメンタリーは、日本のテレビメディアではほとんど報道されないこの問題について、多角的な視点から取り上げていた。

 この事件では、山口敬之氏に対して逮捕状が出ており、成田空港で警察が山口氏の帰国を待ち構えていたが、直前になって上層部から逮捕の取りやめが指示されたとされている。番組では、山口氏が安倍首相の自伝本を書くなど、首相に近しい人物であったことを紹介したうえで、突然の逮捕取りやめにこの関係性が影響を与えている可能性を示唆していた。

 また、『Japan’s Secret Shame』では、日本において性暴力の被害者への理解や支援が行き届いていない現状も問題視。番組内で伊藤氏は、都内唯一の性暴力被害者の支援センターを訪問するが、そこでは人員不足のため担当者が2名しかおらず(かつては1人体制の時もあったと証言される)、また、暴行直後に法医学的証拠を残すためのレイプキットもその施設にはなく、特定の病院に行かなくてはならないといった状況も説明された。

 支援だけでなく、捜査の面でも、日本は性暴力対策への遅れが目立つ。伊藤氏は、警察に被害を訴えた際、3、4人の男性捜査員の目の前で等身大の人形を相手に性行為の再現をさせられ、さらに、それを写真に撮られるといった体験をしたとも番組で語っている。

 これらの話の一部は、伊藤氏の著書『Black Box』(文藝春秋)でも訴えられていたことでもある。

 日本において、性暴力被害者に対するケアがどれだけ貧しい状況にあるか『Japan’s Secret Shame』では克明に紹介された。なるべく早急に被害者の目線に立った支援や捜査のシステムを整え、被害に遭った人たちが声を出しやすい環境を整えていく必要性があるが、日本社会においてそのような状況がつくりにくいのにはもうひとつ要因があるようだ。被害者に対するセカンドレイプである。

 番組では伊藤氏に向かってインターネットを通して<ビッチ><あちこち寝てまわって欲しいものを手に入れてる女><売春婦に決まってる>といった罵詈雑言が浴びせられ、家族の写真まで拡散されているという二次被害も紹介している。さらに唖然とさせられるのが、山口氏を擁護する立場として『Japan’s Secret Shame』のインタビューに応えている自由民主党・杉田水脈衆議院議員の言葉だ。

 なんと、杉田議員は「レイプされた彼女にも責任がある」との意見を表明したのである。『Japan’s Secret Shame』で杉田議員はこのように答える。

<彼女の場合は明らかに女としても落ち度がありますよね。男性の前でそれだけ飲んで、記憶をなくしてっていうようなかたちで>

<社会に出てきて女性として働いているのであれば、それは嫌な人からも声をかけられますし、それをきっちり断ったりとかするのも、それもスキルのうちですし>

 続けて、インタビュアーからセクハラを受けた経験について質問された杉田議員は笑いながら<そりゃ、社会に生きていたら山ほどありますよ(笑)。はい。でも、まあ、それは、そういうものかなあと思って>と語り、さらに、伊藤氏の告発の方こそ山口氏の尊厳を損なわせるものであるとの主張を述べていた。

<男性の方は悪くないと、犯罪ではないという司法裁判がくだっているわけです。そこを疑うということは、日本の司法に対する侮辱だと思います。日本の警察、世界で一番優秀です。伊藤詩織さんがああいう記者会見を行なって、ああいう嘘の主張をしたがためにですね、山口さんや山口さんの家族には、死ねとかっていうような誹謗中傷のメールとか電話とかが殺到したわけですよ。だから、私はこういうのは男性側のほうが本当にひどい被害を被っているんじゃないかなというふうに思っています>

 たとえ女性が酩酊するほど酒を飲んでいたとしても、それが女性側に対する「レイプされても仕方がない」という理由にならないのは言うまでもなく、「女はセクハラぐらい我慢しろ」という暴言もあまりにひどい。

 杉田議員はブログで、このインタビューは<「#metoo運動の日本での反応」ということで、男女共同参画やセクハラに対する一般的な話しが主>という企画内容の取材であり、伊藤氏の特集番組という認識はなかったと釈明している。一方で、放送後には<もし私が、「仕事が欲しいという目的で妻子ある男性と2人で食事にいき、大酒を飲んで意識をなくし、介抱してくれた男性のベッドに半裸で潜り込むような事をする女性」の母親だったなら、叱り飛ばします。「そんな女性に育てた覚えはない。恥ずかしい。情けない。もっと自分を大事にしなさい。」と>ともツイートしており、番組企画に対する杉田議員の認識はどうあれ、性暴力の被害は女性にも責任があるという基本的な主張は変わらないようだ。

 『Japan’s Secret Shame』が映し出したのは、女性の性暴力に対して、日本社会全体があまりに冷酷であり、無理解であるという現実だ。

 政権与党にいる国会議員がこれだけ堂々と女性差別の構造を是とするような発言をしている状況で、性暴力被害に遭った被害者が声を出しやすい環境をつくることができるのか、ましてや、「女性活躍」など絵に描いた餅なのではないだろうか。

(倉野尾 実)

最終更新:2018/07/03 20:00
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