高プロは序奏でしかない? 政府が目指す「成果型」の完成形はすべての会社員に関係ある

2018/07/02 20:00

 こんにちは! ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。

 最初に個人的なお知らせがあります。7月中旬頃に新刊が発売されます。タイトルは『まだ間に合う 老後資金4000万円をつくる!お金の貯め方・増やし方』(明日香出版社)です。Amazonでも予約受付が始まりました。この連載でも紹介してきた企業型DCやiDcCoの実践的なこともふんだんに書きました。読んでいただけたら嬉しいです。

 さて、6月29日、安倍政権が今国会の最重要課題と位置付けてきた働き方改革法案が成立しました。法案に盛り込まれる内容の中で最も注目されていたのは「高度プロフェッショナル制度」。略して高プロとも言われています。

 一部の高収入会社員限定のもので自分には関係ないと思っている人も多く、その場合、制度の内容にも注目していないかもしれません。今回は、高プロについての解説と、本当に自分に関係ないかということをお伝えしていきます。

高度プロフェッショナル制度って何?
 まず、高プロの対象者ですが、会社員の中でも年収1075万円以上で、かつ、アナリスト、コンサルタントなど一部の高度な専門業務に限られる、ということになっています。

 通常の会社員は1日8時間、週40時間の労働という法律上の縛りがあり、それを超えると時間外労働、そして深夜労働、休日労働という取り扱いになりますが、該当者からはそういった考え方がなくなります。労働時間という概念がほぼ無くなってしまうということです。当然、それらに対する手当、割増賃金もなくなります。労働への評価・対価は「時間型」から「成果型」になるのです。成果によっては、給料が下がることもあるでしょう。

 なぜこのような話が出てくるかというと、大きな理由としては、日本の企業は人件費のわりに、つまり労働時間のわりに生産性が低いことが指摘されているからです。経済成長を促し国際競争力を高めるためには、ここテコ入れしなければということです。また、労働者にとっても、現状だと仕事の遅い人の方が残業代等でお給料が高くなる現象も起こります。

なぜ国会でこんなに揉めたの?
 高プロに対しては反対意見が非常に多く大揉めになりました。揉めた大きな理由として挙げられるのは、「過労死」を招く可能性があるだろうという指摘です。

 何時間働いても問題がないので、仕事の完了や成果を求めて際限なく働いてしまう、というか働かされてしまう可能性は考えられます。今までの法律でもいわゆるブラック企業に勤務し過労で亡くなった方がいます。その遺族にとっては、労働時間という概念のない制度の成立など考えられないということで、声を上げています。人の「死」に繋がることとして国会も揺れたという印象が強いです。

 また、働き方改革とは、長時間労働を是正する、働き方の多様化を柔軟に受け入れるなど、働く手にとってプラスのものではなかったのですか? 実は、雇う側にとって都合の良い話だったのですか? という声もあります。会社と従業員が、同じ方向を向くのが理想ですが、どうしても対立する両者になりやすいのでこういった意見が出るのも当然でしょう。

 現在の法律でも「裁量労働制」という、きっちり所定労働時間を働くことではなく、成果が重視される制度があります。高プロよりも縛りがあるにも関わらず、長時間労働が横行しており、会社側に都合の良い制度では? という指摘が以前からありました。そして高プロについて議論する際、この裁量労働制の実態データが参考資料として使用されていたのですが、厚生労働省が高プロ成立のためにデータを改ざんしたのではという問題もありました。

その他の労働者には関係のないこと?
 高プロの対象は一部の人ですが、「時間型」から「成果型」への時流の変化は、将来的には全ての会社員にとって関係のあることだと思います。

 なにせ、高プロの元となったのは、第一次安倍政権の時に実現しなかった「ホワイトカラーエグゼンプション」と言われているからです。エグゼンプションとは、脱時間給制度です。こちらは年収400万円以上のホワイトカラーを対象と考えられていました。年収400万円となれば日本中の多くの会社員・契約社員が対象となります。政府が目指す「成果型」の完成形はここではないかと考えられます。

 今回の高プロ成立を含む働き方改革は、労働基準法制定以来70年ぶりの大改革です。法律の改正には何らかのメッセージがあると考えるべきだと思います。長らく、労働者に有利とも言える労働者トレンドだった法律ですが、もしかすると会社側に有利とも言える経営者トレンドに動いていく可能性、そして結果を出す人とそうでない人に対する報酬やストレスの格差が生まれるなども考えられるのではないでしょうか。

 今回の対象者は少なくても、関係の無い話とは思わない方が良さそうです。

最終更新:2018/07/02 20:00
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