ドラマレビュー

豊川悦司、朝ドラ『半分、青い。』の胡散臭い漫画家役に垣間見た“本領”

2018/06/04 21:00

胡散臭さを恐怖ではなく演じる

 豊川は、渡辺えり子(現・渡辺えり)が主催する劇団3○○に所属していた舞台俳優で、退団後に数々の映画やドラマに出演。初めは1シーンしかない脇役ばかりだったが、独特の美声と、常に殺気を放っているかのような凄みのある存在感で注目されるようになる。92年には、超能力を持った兄弟が日本中を放浪する姿を描いた深夜ドラマ『NIGHT HEAD』(フジテレビ系)に出演。普段はクールだが、怒りで我を忘れると念動力を発揮してしまう超能力者・霧原直人役を演じ、弟役の直也を演じた武田真治とともにカルト的な人気を獲得した。

 当時の豊川は、マニアックな映画や深夜ドラマを主戦場としていた。70年なら岸田森、近年なら高橋一生や井浦新のような、脇で魅力的な演技をするマニア好みのカルト俳優だったのだ。プライムタイムの連続ドラマにも出演していたが、主人公の敵役を演じることが多く、間違っても恋愛ドラマで主役を張るようなタイプではない、と当時は思っていた。

 しかし、野島伸司脚本のドラマ『この世の果て』(フジテレビ系、94年)に出演して以降は人気に火がつき、『愛していると言ってくれ』に出演したことで大ブレーク。おそらく「トヨエツ」と呼ばれだしたのは、このあたりからだろう。この作品の印象から、クールな二枚目俳優のイメージを持つ人は多いが、基本的に豊川が得意とするのは、暗めの文芸作品だろう。

 人妻と不倫する田舎の駅員役を演じた野沢尚脚本の『青い鳥』(TBS系、97年)、なかにし礼の自伝的小説のドラマ化で、ビートたけし演じる兄に翻弄される弟の苦悩を描いた『兄弟~兄さん、お願いだから死んでくれ~』(テレビ朝日系、99年)等の、こってりとした作品に過去出演することが多く、近年では映画『後妻業の女』(16年)で演じた、高齢者の遺産を狙う女詐欺師の元締めとなる結婚相談所所長の胡散臭さが印象に残っている。

 そんな中、秋風先生が面白いのは、胡散臭さはそのままだが、それを恐さではなく面白い変人として見せていることだろう。トヨエツの中にある胡散臭さを、少し引いた目で見せると、こんなに笑えるというのはなかなかの発明ではないかと思うのだ。
(成馬零一)

最終更新:2018/06/04 21:00
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