佃野デボラのホメゴロシ!

朝ドラ『半分、青い。』脚本家・北川悦吏子の“革命的な表現手法”“トレンディ霊力”をホメゴロス

2018/06/13 21:00

あふれるサービス精神とコメディセンスが革命的

 神は、シーンと台詞ありきで後から背景を書き足す作風で知られる。「恋愛の神様」が描く「北川世界」において最も重要なのは「きゅんきゅんシーン」と「萌える台詞」であり、そこに至る背景や物語は二の次。『半分、青い。』はその集大成といえる仕上がりで、「Why」や「How」の過程は映像で描かず、台詞かナレーションで「こういう設定だから。そういうことでよろしく」と唐突に説明される。この手法もまた2018年の今、5周ぐらい回って新しいといえるのかもしれない。

 本作では鈴愛の亡き祖母・廉子(風吹ジュン)による「空から降るナレーション」が登場人物たちの心の動きや、すでに映像上に存在する情報をわざわざ説明・反復してくれるのがお約束となっている。これは視聴者の理解力を小学校低学年程度に想定している神の“親切心”。つまり廉子のナレーションは作り手である神自身の声なのだ。「この台詞ときめくでしょ?」「今から面白いことを言いますよ。どう? 面白いでしょう?」と、本来はBDやDVDを購入しなければ聴けない、脚本家によるオーディオコメンタリーをOAで聴けてしまうというお得感。これも神のサービス精神の成せる業だ。

《コメディが得意です》と公言するだけあって、神は笑いのセンスにかなり自信をお持ちのようだ。鈴愛の初デートを描いたエピソードについて《とにかく笑えます!(実は笑うのが好きなんです。泣かせるよりも)》とツイートで予告、自らハードルを上げるというストイックさをお見せになった。そのうえで放送された第3週「恋したい!」は、通学途中に出会った小林(森優作)の落としたカセットテープを拾った鈴愛が、小林のルックスを「微妙」と見下すにはじまり、初デートで突如飛び出した鈴愛の「拷問機具オタクの蘊蓄」で小林をドン引きさせ大失敗に終わるというあらまし。凡人の筆者にはどこで笑ったらいいのかわからなかったが、Twitterには「朝から超笑った〜」「鈴愛の天真爛漫さが最高www」などの声が上がった。 

 また、神が《渾身の一打や》となぜか突然、現役時代の清原のような口調で激推しした、廉子による「もうイントロ始まる? 星野源が歌いはじめる〜?」といういわゆる「メタナレ」もあり、『あまちゃん』(13年)におけるカーブやスライダーを自在に操るようなメタ技法とは趣を異にする“直球”の手法が話題を呼んだ。おそらく神のコメディセンスはイルカの超音波やモスキート音のように、聴こえる人にしか聴こえない“高次元”のものなのだろう。

半分、青い。 上 (文春文庫)
北川悦吏子へのラブレターだよ
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