[サイジョの本棚]

舞台俳優への暴走するガチ恋と、整形後のリアルな日々――生々しい女の欲望を描いた2作を紹介

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

■『りさ子のガチ恋 俳優沼』(松澤くれは、集英社)
risakonogachikoi 「ガチ恋」とは、「タレントやアイドルなど遠い存在に、ファンの域を超えて本気で恋をしている状態」のこと。アイドルや若手タレントを応援するファンの広がりとともに使われるようになった言葉だ。小説『りさ子のガチ恋 俳優沼』は、架空の2.5次元舞台(『政権☆伝説』、略して『伝ステ』)を軸に、“ガチ恋”する方とされる方、両方の光と影に深く踏み込んでいる異色作だ。

 もともと、舞台公演として昨年上演され、その異様なリアリティーが一部で話題を集めた本作。2.5次元舞台『伝ステ』で主演を張る俳優・翔太の熱心なファンで、全公演に通い詰め、こまめにファンレターや高価なプレゼントを贈る26歳の地味な会社員女性・りさ子。翔太の後輩格で、この舞台を足掛かりに本気で売れたい俳優・秋山。そして、翔太との関係をSNSで“匂わせ”てファンを煽るアラサーのグラビアアイドル・るる。小説版では、主にこの3人の視点を交互に連ねながら、単なる業界のあるある暴露やオタクへの揶揄に終わらない、人間模様が繰り広げられる。

 序盤で描かれるりさ子の日常は、俳優オタクのみならず、アイドルなど芸能界隈のオタクにとっては、どこかで見かけたことがあるリアルなものばかりだ。「舞台終演後に、オタ友で居酒屋に集まり、関係者でもないのに『千秋楽お疲れさまでした!』と乾杯する」「自分だけに向けられた(はずの)ファンサービスに舞い上がる」という滑稽ながらもほほ笑ましい一面から、「常連オタクのファッション批判&すっぴん批判」「お金を出さない茶の間(在宅)オタクを下に見る現場オタク」「SNSの裏アカウントで共演俳優を批判」などのほの暗い面まで、オタクの生態が裏も表も容赦なく晒されていく。

 りさ子の描写を身近に感じた人なら、翔太の後輩俳優・秋山の視点、グラビアアイドル・るる視点からのパートも興味深く読むことになるだろう。人気俳優と密着した写真をSNSに投稿して腐女子層の開拓を狙う秋山、俳優との交際を匂わせることで心を満たすグラドル・るる。俳優同士で交わされるファンについての残酷な軽口や、共演者の足の引っ張り合い、ユルユルの恋愛模様も、著者・松澤くれは氏が舞台演出家・脚本家であることも手伝って、強い説得力をもって立ち上ってくる。

 一見、良心的なファンだったりさ子は、「るるが、翔太の私物をSNSに投稿する」「翔太が急に2人掛けソファーを購入する」「特定班により、行きつけのお店が一致する」などとディテールが重なって明らかになる2人の親密な関係や、とあるショックな出来事で、直接2人を別れさせるべく暴走を始める。ガチ恋オタクがうっすら持っている、“推しに自分の思いをぶつけたい”“匂わせ女に思い知らせてやりたい”という暗い願望を実現するモンスターと化すりさ子。しかし、直接思いをぶつけるということは、同時に、タレント側の本音をぶつけ返されることでもある。

 ファンと芸能人、現実では相まみえることのない本音がむき出しになり、平行線をたどる2者の間で浮き彫りになるのは、“ガチ恋”という矛盾した情熱の正体だ。「ガチ恋」とは「タレントを、本気で好きになること」ではある。けれども、見たくない相手の本心は、見せてほしくない。聞きたくない本心を語るくらいなら、完璧に騙してほしい。心の底では相手を「ガチの人間」だと思っていないからこそ、気兼ねなく、衝動のままに好意をぶつけられる存在として愛しているのだ。

 直接向き合ってどす黒い思いを絞り出したりさ子と、真剣に返答した翔太の間には、恋人・るるにも入り込めない特別な関係性が確かに生まれている。それにもかかわらず、現実の翔太の思いを受け止めてしまったりさ子の情熱は、憑き物が落ちたようにうせてしまうし、その流れは読者にも自然に見えてしまう。「相手も自分と変わらない人間である」と気づいた先に広がる、荒涼とした世界に、りさ子がどう立ち向かうのか――。彼女の最後の選択は、ホラーのようで、皮肉なほど現実的でもあるのだ。

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