[官能小説レビュー]

食事からセックスの相性や2人の親密さを想像させる『裸飯 エッチの後なに食べる?』

2018/05/21 19:00
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『裸飯 エッチの後なに食べる?』(祥伝社)

 日常における何気ない行動の中で、最も性欲と直結するのが「食欲」である。

 これからセックスをする相手との夕食のひとときは、数時間後の性への衝動を掻き立てる。ソースを舐める舌や油を滴らせた唇、肉を頬張る口元などは、どれもがセックスの時に行う行為へと脳内変換をすることができるのだ。この後、その舌は自分の肌をなぞり、唇で光る油はお互いの唾液と混じり、軽く開いた口元は胸の先端を吸うのだろう――そう考えると、セックスをする相手と共に食事をすることは、非常にいやらしい行為である。

 今回ご紹介する『裸飯 エッチの後なに食べる?』(祥伝社)は、セックスの後で食べる食事も含めて「エロ」を感じさせる短編集である。「チーズ&ハニー」「BBQ」「卵かけごはん」「鰻」など、文字を追うだけで涎が出そうな副題の中で、筆者が最も興味を惹かれたのが、第2話に収録されている「野菜たっぷりのラーメン」である。

 主人公の晶子は、モテ期を逃した30代の「元美人」。学生時代から自分が美人だということを自覚して育った。しかし証券会社に入社してからというもの、明らかに自分よりもブサイクな同僚女性がバタバタと結婚していく。

 35歳となった晶子は、一大奮起して「相席居酒屋」へと足を運んだ。ナンパ待ちをしている20代前半女性ばかりの面子に辟易していた晶子に相席を希望してきたのは、ひとまわりも年下の学生・慎之介であった。

 泥酔した晶子を介抱するという理由で彼女のマンションへついてきた慎之介は、急に晶子を口説き始めた。鍛え上げられたたくましい腕でお姫様抱っこをされ、ベッドへと連れられた晶子は、今までに経験したことのないセックスへと導かれる。

 それまで晶子が経験してきたセックスは、完全に彼女主導であった。美しい顔立ちとグラマーなスタイルを持つ「高めな女性」である晶子が大胆に振る舞うと、どんな男たちでも晶子のなすがままだったのだ。しかし、慎之介とベッドを交わしている晶子は完全に彼のなすがままで、しかも彼に翻弄されてしまう――。

 朝まで抱き合った晶子は、ベッドを抜けて裸のままでキッチンに立ち、食事を作る。インスタントラーメンの袋を開けて、たっぷりの野菜を入れた。一杯のインスタントラーメンを若い男と分け合って食べる姿は、とてもかわいらしい。

 セックスの後でインスタントラーメンを分かち合える2人の関係に、筆者はとても深い親密度を感じた。それは、フレンチのフルコースを共有する以上にハードルが高いと感じてしまう。

 食事を共にできる男女は、セックスの相性も良いものなのだろうか? 改めて、自分自身の私生活を振り返ってしまう作品である。
(いしいのりえ)

最終更新:2018/05/21 19:00
裸飯 エッチの後なに食べる? (祥伝社文庫)
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