性欲があっても友人関係にはなれると思う。『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子さんインタビュー

 出会い系サイトで会った人に本をすすめる――いささか奇矯に思えるこの試みを、1年間続けた書店員がいる。「ヴィレッジヴァンガード」に勤め、本を愛してやまなかった花田菜々子さんは、仕事にも家庭にも行き詰まっていた2013年から1年、マッチングサービスを利用してさまざまな人に出会い、おすすめの本を紹介し続けた。

 花田さんはその経験を記した『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)を上梓。マッチングサービスには、多様な人がいる。「出会い系」というとどうしても恋愛やセックスを前提にした世界のように感じるが、案外そうではない世界もそこには広がっているようだ。現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長を務める花田さんに話を聞いた。

 

――書籍のタイトル『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)では「出会い系」とありますが、実際に本を読むと、フェイスブックを利用したマッチングサービスの一種ですよね。最近では「Tinder」などマッチングアプリで一般化しつつありますが、花田さんが使われていた2013年当時はまだそんなに広まってはいなかったように思います。なぜ「出会い系」を使ってみようと思ったんですか?

「ひとつには、海外旅行に行ったときに、現地の人や日本人の人と『どこ泊まってるの?』とか話してご飯を食べに行くようなことが楽しくて好きだったんです。ベタベタ仲良くなるんじゃなくて、ご飯だけ食べて少し話して『じゃあね』って別れるような付き合い方が海外ならできるのに、なんで日本ではできないんだろう? と思っていました。日本で同じお店でご飯食べてる知らない人に『これからどこ行くの?』って絶対言わないじゃないですか。自分もそうやって話しかけられたら『怖っ』って思いますし。その不自由さはなぜなんだろう、と」

――使ったサイトはどうやって見つけたんですか?

「もともと私はテクノロジーにすごく疎くて、ツイッターもフェイスブックも『なんか怖い』と思ってやっていませんでした。でもあるとき、社会起業家の方の新書を読んでいたら『これからはこういうサービスが台頭して社会が変わっていく』とそのサイトが紹介されていて、『見てみよう』と思って登録しました」

――最初から、出会った人に本をすすめる目的で始められたんですよね。

「本が大好きで、人にすすめるのももともと好きだったんです。友達にも『君はこういう人だから、この本が面白いと思う』『こういうことで悩んでるって言ってたから、あの本を読んでみたら』とか、よくおすすめしてました。それをもっといろんな人にやりたいという気持ちはありました。それでちょうどプライベートでしんどかった時期にサービスの存在を知って、『じゃあせっかくだから登録して、ここでやってみようかな』と」

◎「男が買い手/女が売り手」ではない、互いにジャッジする世界

 花田さんが使っていたサービスは、「知らない人と30分だけ会って話してみる」ことをコンセプトにしたもの。プロフィールを登録したあと、日時とだいたいの場所にメッセージを添えてアップすると、それに興味を持った人から連絡が届く。目的は異性との“出会い”に限らず、仕事や趣味の話をする前提でOKとされていた。

 とはいえ、花田さんが一人目、二人目にマッチングした人は、なんとかセックスの話に持ち込もうとする男性だった。そして4人目に出会った男性に、花田さんは思わぬ指摘をされる。「プロフィールをすごく変わった感じで書いているけど、あれはヤバいやつに見えるから変えたほうがいい」。職業欄には、「セクシー書店員」と書いていた。

――奇をてらったプロフィールを書いていたというあたり、たしかにインターネットをあまり使ってこなかった方なんだろうな、と思いました。

「そうそう、インターネット音痴で。何か目立つことを書いたほうがいいと思ってやっていました。そのときに会った人に言われたのが、『興味本位で会いに来る人もいると思うけど、正直自分も「変なやつが来たらどうしよう」と思ってちょっと怖かった』と。ふざけていたつもりが怖さを与えていた(笑)。サイトを見ていても、女性からの募集はすぐに埋まって、男性からのはなかなか埋まっていないようだったので、『女性ってラッキーだな』『それだったら結構やりやすいぞ』と思っていたんですが、そうでもなかった。男が買い手で女が売り手という市場ではなくて、お互いが試されているし見られている。ジャッジするのは自分だけじゃないんだ、と知りました」

――私はマッチングサービスや出会い系を使ったことがないので、花田さんの本を読んで、同性同士で会うのもOKだったり、このサービス自体をひとつのコミュニティと捉えて、ユーザー同士で横のつながりを持って自治的なことをしようとしている人がいたりすることに驚きました。

「すごく開かれた出会い系という感じでしたね。実際に会ったあとにお互いを評価するシステムがあって、そこでずっと高い評価をつけられ続けている人と会うのは安心だし、何回かマッチングが成立しているはずなのに誰からも評価を書かれていないのはヤバい人なんじゃないか、とかって判断ができたんです。要は、500人くらいのグループが、みんなで相手を変えていろんな人と会っているので、『この人はやめたほうがいい』とか『この人はすごく良い人だったからぜひ会ってほしい』みたいな情報は、わりと頻繁にやりとりされていました」

◎「結局男は下心があるんだよ」性欲ポリスのうざったさ

 プロフィールを修正した花田さんは、さまざまな人と出会う。初対面でなんとなく気があって、一晩飲み明かして雑魚寝した男性、コーチングを学んでいる女性、会ったあとに自分たち2人を主人公にした官能小説を送りつけてくる男性……。気が合った人たちとはその後も交流が続き、そこからまた人を紹介されて、と友人関係が広がっていく。そこには男性もたくさんいた。

――「出会い系」といったときに、どうしても連想されるのは恋愛やセックスを前提にした関係だと思うのですが、花田さんの本を読むと、そうでもないことも多いですよね。1年間使ってみて、異性間の関係性のバリエーションが増えたという感じはありますか?

「うーん、そこはもともと性格として、『付き合う・付き合わない』しかない考え方の人が苦手というか、男女の関係はそれだけじゃないだろうという考え方をするタイプだったので。『男女が一晩同じ部屋にいたらセックスするのが当たり前だ』みたいな考え方はしないほうでした。だから男友達も普通に若い頃からいたし、この1年でより強くそう思うようになりました。でも、みんながみんなそうではなくて、性的な関係性でしか捉えない人もいるし、こちらがそういうつもりじゃなくても性欲を出してくる人もいる。多様だなぁ、と思いましたね」

――私も「男女が一緒にいたら即ち性的な関係につながる」みたいな考えはない側なんですが、そうではない人も多いですよね。どちらかというと、今は「一緒にいたら何かあるのが当然だ」みたいな考え方をする人のほうが多いような気すらします。

「ツイッターとかでそういう声がうるさくなったように見えるってだけじゃないですか?(笑) まさにそれでおすすめしたいのが、千早茜さんの『男ともだち』(文春文庫)です。男女が恋愛や性欲以外でつながることを描いた小説で、主人公の女の子は不倫をしているんですが、恋人は心の支えにはならないし、利用されている感じもある。一方で、彼女には男友達がいて、その彼もいろんな女の子が出入りしているんだけど、2人は一度もそういう関係になったことがない。一緒に過ごしてもそうはならないんだけど、ずっとお互いを見ていて励まし合う、ある種唯一無二の関係なんだ、ということを描いています。これは私は『すごいわかる』と。セックスしていない友達としか築けない関係や頼れないことってあると思うんです。でもこういう話をすると『いやいや、そんなわけないじゃん。結局男は下心があるんだよ』って言ってくる人がいるんですよね。あれ、なんなんでしょうね」

――わかります。ほんとになんなんでしょうね。

「『下心があるんだからね』って必殺技のように言ってくるんですけど、あったらなんなの? と。まず『お前はそうだとしても、こっちに強制してくるな』っていうのもありますし。下心があったって別にいいじゃないですか。こっちだって、相手の持っているものに魅力を感じて親しくなることはありますし、それが満たされなかったからって離れるわけじゃない。男の人が『隙きあらばヤラせてほしいな、でもヤラせてくれないな』と思いながらでも、友情は築けるじゃないですか。そこにすごくこだわる人っていますよね」

――男友達相手でも「この人、顔がいいな」とか思いますしね。だからといってそれだけではないし、即恋愛になるわけでもない。関係性のグラデーションがない人と接するのはしんどいな、と思います。

「『性欲入った、はいダメ!』みたいな、性欲ポリスがいますよね」

――性欲ポリス(笑)。あったとしても、直接ぶつけてくるわけじゃないなら普通に付き合えるだろう、っていう。

「無理やり迫ってくるとか、隙きあらばそういう言葉を投げかけてくるんだったら面倒ですけど、そうでもないならお互いもうちょっと大らかに、いろんな関係があっていいでしょう、と思います」

◎自分を開示することが、寄ってくる人を選別するフィルターになる

――今、『男ともだち』という本を紹介してくださったみたいに、花田さんは出会った人に本を紹介されてきたわけですが、70人におすすめして、読んでくれた割合はどれくらいですか?

「半々くらいだと思います。悪くない数字だと思ってます。本に興味がなくてとりあえず会いたいって思ってる人もいるかもしれないし、私自身誰かに本をすすめられて『面白そうですね』って言ったけど結局買わないことも結構ありますから。だから買うところまでいってくれていたら大勝利ですよね」

――1年間のその経験は、その後の書店員としてのお仕事に影響を与えたところはありますか?

「お客さんに聞かれたときに、前よりは自信を持ってすすめられるようになりました。『こういうふうに聞いてくる人には、どういう本がいいんだろう?』というのが、ある程度経験値として積み上がっているからだと思います。それと、職場も変わったのでこの経験の影響かどうかはわからないんですが、お客さんを人として見られるようになりました。今までは、例えば客数が1日100人だったら、『100人』という塊でしか見れていなかった。その人たち一人ひとりが何かを考えて生きているということが、わかってはいてもリアルに受け止められてはいなかったと思います。それが、お客さんとしゃべって『この本は違う』『こういうのが読みたかった』という言葉を持っている人間なんだ、と体感として理解した感じはあります」

――お店に立っているだけだと、なかなか得られない実感ですよね、きっと。

「あとは、見える世界が変わってきました。『出会い系』をやる前は、『転職したいけど行く場所なんかない。大したキャリアじゃないから、やれることなんかない』って堂々巡りの中にずっといたんです。周りの人も同じようなことを言っていたから、それが事実だと思いこんでいたけれど、いろんな人に会う中で『そうでもないな』と思えるようになりました。唯一無二だと思っていた職場への執着も薄れていったし、『どうとでもなる』もしくは『どうにもならなくても別の楽しさが存在する』と知っていった気がします」

――長く働いて思い入れがあると、なかなか踏ん切りがつかないですよね。「会社の人が嫌いなわけじゃないし」という。

「そうなんですよ。『こういうところは嫌だけど、こういう楽しい部分もある』『社内に友達もいっぱいいるし』って、何かと理由をつけて限界値まで頑張ってしまうんですよね」

――そういうときに、全然関係ない人と会って話をするのは有効そうですね。出会い系やマッチングサービスを使って人と出会うときに、より楽しむためにできる工夫って何だと思いますか?

「自分を開示しないと、いいつながりはできないと思います。自己紹介の仕方として『28歳女子です、都内に住んでます』だと引っかかりは何もないですよね。確かに自分のことを言うのは怖いから、せいぜい『趣味は読書です』『犬を飼ってます』くらいに留めてしまう。だけど、自分が思っていることや、『これが自分らしさだ』っていうプロフィールを書けたら、それに反応した人だけが応答してくれて、会いたい人にスムーズに会えるんじゃないでしょうか。例えば『漫☆画太郎が好きです』って書いたら、同じものが好きな男子からは反応があるだろうし、『漫☆画太郎が好きだなんて、気持ち悪い女だな』って思う人はいなくなっていくじゃないですか。そういうフィルターとしても有効だと思います。ダサい言い方ですけど、まずは自分を知って、自分がいちばん伝わることを具体的に書いていくことが大事なんじゃないでしょうか」

花田菜々子(はなだ・ななこ)
1979年、東京都生まれ。書籍と雑貨の店「ヴィレッジヴァンガード」に12年ほど勤めたのち、「二子玉川蔦屋家電」ブックコンシェルジュ、「パン屋の本屋」店長を経て、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長を務める。編著書に『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)がある。

(取材・構成/斎藤岬)

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