[官能小説レビュー]

「エロを笑う」日本特有の感覚で官能小説の楽しさを味わえる『淫謀』

2018/04/23 19:00
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『淫謀 1966年のパンティ・スキャンダル』(祥伝社)

 官能小説の楽しみ方のひとつに「エロを笑う」という方法がある。欧米のハーレクインロマンスなどによく見られる「シンデレラストーリー風官能小説」とは真逆に位置する、こうしたエロの楽しみ方は日本特有の感覚だろう。

 古来より親しまれて来た春画も「エロを笑う」作品の代表格である。男女がなまめかしく交わる春画の中には、巨大な男根が描かれていたり、人間のような大きな蛸に犯される女性などが描かれている。こうした春画は、決していやらしさを誘うものではなく、面白おかしくセックスを楽しむためのアイテムとして、多くの日本人に愛されてきた。

 今回ご紹介する『淫謀 1966年のパンティ・スキャンダル』(祥伝社)も「笑うセックス」を楽しめる作品のひとつである。時代は、ビートルズが来日公演を果たした1966年。世界中のファンを魅了するビートルズの武道館公演では、熱烈なファンが彼らに投げる無数のパンティがひらめいていた。その中の1枚の真っ白なパンティに、英国諜報部が掴んだ機密が隠されていたのだ。そして2017年の現在、テレビ制作会社の女性社員が次々と失踪するという奇妙な事件が起きる。その事件の鍵となったのが「ビートルズのテープ」なのだが——。

 沢里裕二氏ならではのおバカなシチュエーションに乗せて、ほとばしる性描写が生き生きと綴られている。読み進めていると、あまりのバカバカしさに心が軽くなるような爽快感に包まれる。

 昨今のエンタメといえばネットであり、「小説を読む」というと、どうしても身構えてしまいがちな世の中だが、こうした日本古来の「エロを笑う」という独特の楽しみ方は、硬くなった頭がふっと柔らかくなる面白さを持ち合わせているのである。決して高尚なものではない、等身大の官能小説の楽しみ方を、ぜひ本作で味わってみてはいかがだろうか。
(いしいのりえ)

最終更新:2018/04/23 19:00
淫謀 一九六六年のパンティ・スキャンダル (祥伝社文庫)
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