“中学受験”に見る親と子の姿

「受験校を勝手に決めた」母と「逆らわない」娘――不合格連発の中学受験で起きた“非常事態”

2018/04/22 17:00

「りんこさん、受験なんて、させなければ良かった! 私が『中学受験した方が、のちのち楽だよ』なんて美香を誘導してしまったばかりに、美香にこんなつらい思いをさせてしまったんです。そもそも受けた学校だって、私が『ここがいいんじゃない?』って半ば強引に決めてしまって、美香の意志なんて、なかったも同然です……。私が悪いんです。私がいなければ、美香はもっと楽しい小学生でいれたはずなのに……。私がこんなバカな世界に誘導してしまって……。私が悪い、私が、私が……」

 受験を受けるのは子どもだが、不合格が続くと、自分自身を責めてしまう母親もいる。言葉にならない嗚咽だけが受話器から聞こえてきた。

みぞれの日に「上履き忘れ」という最悪の事態

 明けて5日目。その日は前日のポカポカ陽気から一転し、冷たいみぞれが降る日になった。塾から「受験最終日だから」という説得で、渋々、律子さんいわく「聞いたこともないような学校」の校門をくぐることになり、当日は、もう親子2人に何の会話もなかったそうだ。

 そして、その校舎の玄関先で上履きに履き替えようとした時に、律子さんは真っ青になる。

「上履きが入っていない!」

 学校によっては靴のままでOKなところと、上履き必須のところがある。5日目の受験校は上履き持参の学校だったにもかかわらず、荷物を整理したことが仇となり、結果として忘れてきたのだ。まだ周囲の店は開店前なので、買いに行くこともできず、ましては自宅に戻る時間はない。みぞれでビチョビチョになっている玄関で律子さんは、涙を懸命に堪える美香ちゃんに「今、お母さん、スリッパを借りてくるからね!」と必死の作り笑顔で言ったらしい。

 その時だった。制服姿の在校生と思われる少女が律子さん親子の前にやって来て、こう言ったという。

「あの、これ、良かったら、履いてください!」

 少女は親子にそう言いながら、自分が履いていた上履きをその場で脱いで、そして、続けて「生あったかくてすみません(笑)。(受験が)終わったら、ここに置いといてくれたら、それでいいですから!」と、ニッコリと言ってくれたそうだ。

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