生活援助サービスの現場は?

「介護舐めるな」と批判噴出――“訪問介護をボランティアに”財務省の提案に、現場の本音は?

2018/04/17 12:35

ケアマネジャー天野さん
「生活援助だけというニーズも、ボランティアをしたい人もいる。うまく活用する仕組みが整えばボランティアもあり」

 次に話を聞いた天野さんも、ヘルパーとして訪問介護に長く携わり、今は横浜市の事業所でケアマネとして働いている。

 現在、要支援者(介護は必要ではないものの、日常生活に不便をきたしている人)への訪問介護や通所介護(デイサービス)は、国ではなく市町村が中心となって担う体制に移行し、NPO・ボランティア団体なども支援サービスを提供できるようになった。独自の研修を実施して、修了者を「市認定ヘルパー」「生活支援サポーター」などとして活用し、日常生活支援サービスを行うことで、介護予防にかかる給付費を抑える取り組みを行っている市町村もあるのだ。実際には、軌道に乗っているとは言いがたい状況だが、横浜ではかなり進んでいるという。各事業所の研修を受けて、ヘルパーよりも安い金額で要支援の方に生活援助サービスを行う仕組みで、天野さんの知人も、この“横浜モデル”のヘルパー派遣を中心とした事業所を開設準備しているという。

「『掃除だけお願いしたい』といったニーズは実際にあります。その場合、大手の事業所には頼みにくいので、そういった事業所に仕事を依頼したいと思っている方もいるんです。といってもケースバイケースなので、サービス提供責任者(※)がそれぞれのニーズをくみ取ってマッチングできれば、ボランティアであってもうまく活用できるかもしれないですね。専業主婦としての経験を生かして家事をやってあげて、高齢者の役に立ちたいという人は少なからずいるので、これから先もちゃんと使える仕組みが整えば、ボランティアもありだと思います」

 横浜市の場合、シニアが高齢者施設等でボランティア活動を行った場合にポイントが付き、将来自分のために使えるという。ボランティアに応える仕組みはかなり整っている方だ。このことも天野さんがボランティアを容認する意見に影響を及ぼしているかもしれない。また天野さんは、“生活援助だけのニーズがかなりある”という点の具体例を教えてくれた。

「腰の悪い方や独居の男性など、掃除だけ、買い物だけ、料理だけ、というニーズは確実にあります。そういう要請に対しても、必ず医師が『訪問介護による生活援助が必要』と判断し、意見書を出したうえで対応しているので、安易にサービスを提供しているわけではありません。それでも家族がいると、そうしたサービスは提供できないんです。例えば、奥さんが要介護の高齢夫婦の2人暮らしは、夫がいることで料理などのサービスを入れられないこともあります。そういった場合でも、ボランティアなら入れるとしたら、夫婦の生活を支えることができるのではないでしょうか」

 さらに国の財政を考えたとき、介護費を抑制する必要があるということについては、一定の理解を示す。

「ただ、現場で真面目にサービスを行っているヘルパーや私たちケアマネとしては、国のことを考えて介護費を抑制しなければ、という意識にはならないと思います。例えば、在宅の認知症の方だと、家族の負担を減らすためには一緒にいる時間を少しでも減らしてあげたいと我々は考えるんです。すると、ケアマネとしては、デイサービスを増やす方向になる。1割負担ではあっても、利用者はお金を払っているわけですから、『お金をかけさせて申し訳ない』という気持ちにはなりますが、ご本人とご家族のことを考えるとそれは仕方ないと思う。だから、国の介護費というコスト意識があるかと言われれば、ないと言わざるを得ない。私たちは、介護保険の枠組みの中で、できるだけその人のためにと考えるので、介護費を抑制しなければならないのなら、枠組みで縛るしかないというのは理解できます。そうすれば、私たちもその範囲内でやりくりしますから」

 では、ボランティアが入ることによる問題は?

「そのお家に入るんですから、やろうと思えば何でもできますよ。例えば認知症で独居の方とか、犯罪が起こる可能性は大きいと思います。それから、せっかくやる気になって入っても、こんなはずではなかったと思うこともあるでしょうね」

 これについては、サービス提供責任者のマッチングや指示が重要になるだろうと天野さんは指摘する。ケアマネはおおまかなケアプランの作成をするが、利用者の細かなニーズをくみ取ったり、利用者とヘルパーの相性を考えたりするのはサービス提供責任者だ。トラブルが起こらないように采配するサービス提供責任者の役割が大きくなるとすれば、必然的にそこにはお金が発生するだろうと天野さんは言う。最後に天野さんは、訪問ヘルパーをしていたときの思いを聞かせてくれた。

「自立援助のための訪問介護をやった経験があります。脳梗塞の後遺症で片マヒの男性で、腎臓が悪いので減塩食を作らないといけませんでした。その方もやる気があって、週に2回一緒に食事を作っていましたが、私はその方に切り方など指示をするのと同時に、自分の作業も進めて調理を時間内に仕上げないといけない。すごく大変でした。その方は要支援だったのですが、やりがいはあるとはいえ、労力に対しての報酬はほとんどボランティアレベルで、正直むなしかったです。国の目指す生活援助サービスは、そうした自立支援なのでしょうが、内情はそんなもの。利用者のADL(日常生活動作)を伸ばす生活援助をちゃんとやろうとすると、プロとしての高いスキルが不可欠だと思います」

 そして、正直な気持ちも明かしてくれた。

「本当に介護費や医療費を減らしたいと考えているのなら、延命治療とか終末期でものすごくお金がかかっているところにメスを入れてほしい。無駄な医療はたくさんあって、訪問介護にかかる費用なんか比べものにならないくらいの金額がかかっています。訪問介護なんて小さすぎますよ」

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