ドラマレビュー

『アンナチュラル』井浦新が、星野源・高橋一生に続く“アラフォー人気俳優”となる理由

2018/04/03 18:00

少し野暮ったい人間臭さと孤高の存在感

 井浦は、1998年にARATAの名前で芸能活動をスタート。ファッションモデルとして活躍する傍ら、是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』(1999)、松本大洋の人気卓球漫画を映画化した『ピンポン』(2002)、よしもとよしともの漫画を映画化した『青い車』(04)などに出演。当時は、オシャレなサブカル映画に出演する俳優という印象だった。

 転機となったのは、若松孝二監督の映画『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12)で、芸名を本名の井浦新に改めたことだろう。以降は役柄も変化していき、ドラマ『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系、12)で演じた、IT企業の副社長・朝比奈恒介は、若手社長・日向徹(小栗旬)に対して愛憎を抱えているという、それまでとは違う人間臭い男だった。その後、井浦は少し野暮ったい兄貴分というポジションを演じることが増えていく。中でも、LDHが製作するビッグプロジェクト『HiGH&LOW』シリーズで演じた、バイクチーム「ムゲン」のリーダー・龍也は印象的だった。

 一方、『アンナチュラル』の中堂には、ARATA時代を思わせる孤高の存在感と、井浦新になってから演じてきた人間臭さが同居していた。

 それが強く現れていたのが、警察に自殺と判断された恋人の遺体をUDIラボに持ち込んだ男の顛末を描いた、第5話だ。中堂たちは極秘裏に死因を究明し、殺人だと証明するが、それを知った男は、犯人を見つけ出して包丁で刺してしまう。殺人だと伝えることで、自分と同じく、最愛の人を殺された立場にある男を復讐へと誘導した中堂は、苦渋に満ちた表情で雪が舞い散る空を見上げる。「どうして止めなかったんですか?」と言うミコトに対し、「殺すやつは殺される覚悟をするべきだ」と、吐き捨てるように中堂は返す。

 ミコトたちとの距離が縮まり、中堂の人間臭い愛嬌のある部分が描かれるようになっていただけに、この場面はショックだった。

 そして物語終盤、ついに見つけた殺人犯を追う中で、中堂は精神的に追い詰められていく。その姿に、『リミット 刑事の現場2』(NHK、09)で演じた井浦の姿が思い出された。この作品で、井浦は黒川真治という凶悪な猟奇殺人犯を演じていたが、『アンナチュラル』では殺人犯に翻弄される人間を演じていて、まるでARATAと井浦新が戦っているかのようであった。

 連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)のディーン・フジオカや『カルテット』(TBS系)の高橋一生など、近年のテレビドラマは、30代中盤で脇役を演じる男性俳優の人気が爆発することが増えている。星野源が『逃げ恥』でブレークしたのも35歳で、次のアラフォー男性俳優のネクストブレークは誰か? という点に、ドラマファンの注目も集まっている。そんな中、井浦の評価はすでに定着していたが、まさか再ブレークの潮流に乗るとは思わなかった。

 『アンナチュラル』に出演したことで、井浦新は俳優としての幅を更に広げたといえる。今後、どのような役を演じるのか注目したい。
(成馬零一)

最終更新:2018/04/03 18:00
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