更年期症状はホットフラッシュやイライラだけじゃない! デリケートゾーンの痒みも我慢せず受診を

2018/03/29 20:00

 空前の膣ケアブームがやってきた、と言ってもいいのではないだろうか。40、50代向けの雑誌やwebサイトはどこもこぞって「膣周りのケアをしましょう」と唱え始めている。

 私もメノポーズカウンセラーの端くれとして、40代に入り女性ホルモンであるエストロゲンが減少することで、膣周りに様々な変化が訪れることは知っている。たとえば、外陰部のかゆみやヒリヒリする痛み、匂いの変化。また、膣の中の膣壁が薄くなり少しの刺激で出血してしまうことがあることや膣萎縮、そして性交痛……更年期世代になると、これまでにない症状に悩まされる人が多いのである(むろん全員にではない)。

 このあたりのお話をプロに詳しく聞いてみたい――。そう考え、今回は性交痛に詳しいことで知られる潤滑ゼリーを輸入・販売されている小林ひろみさんからお話をうかがうことにした。小林さんはメノポーズカウンセラーでもあり、また女性の健康とワーク・ライフ・バランス推進員でもある。

 小林さんは2008年よりアメリカの潤滑ゼリー「アイディルーブ」の輸入販売をはじめる。自身も若いころから性交痛に悩まされ潤滑ゼリーで解放されたこともあり創業以来、性の健康に関連するセミナー、学会に多数参加。性交時の自然の潤いは女性ホルモンと深く関係していることから専門知識を得るため2014年に更年期のメノポーズカウンセラーを取得。また潤滑ゼリーは成分がとても重要なことから化粧品成分検定1級を取得している。

これまで感じたことのないような不快感が起きることも
――最近のこの膣周りケアブーム、すごくないですか? 「膣ケアしないと、キラキラした40、50代を過ごせないわよ!」的文言が多いようなのが少し気になりますが……。

「膣周りをケアしないと女じゃない! みたいな流れになるのはたしかに心配です。だいたい、更年期世代で強く更年期症状が出ている人って、体調が安定しないわけですから、毎日をなんとか終えるだけで精一杯なんですよ。そういう状態のときにケアは必須的な記事を読むと、『そんなこともできてない私って駄目なのかな……』と落ち込んじゃう恐れもありますから」

――私もそこは気になるところです。ただ、更年期で外陰部や膣にこれまで感じたことのないような不快感を覚える人が増えるのは事実ではありますよね。

「女性ホルモンであるエストロゲンは、皮膚や粘膜の潤いや弾力を保つ役割をしているんですね。エストロゲンが分泌されることで、膣や外陰部の潤いが保たれ、雑菌が繁殖しにくいpH値が維持されます」

――更年期に入りエストロゲンの減少が始まると、膣や外陰部の潤いも低下するんですね。

「はい。そうすると、乾燥によるかゆみやヒリヒリする痛みなど、デリケートゾーンに不快感を覚える症状がでてきます。また、pH値のバランスが崩れて雑菌も繁殖しやすくなり、それが匂いの変化にもつながります」

――更年期といえば、ホットフラシュとイライラ。こういった症状ばかりが注目されがちですが……。

「最近は、薬局や婦人科などで、更年期について書かれたパンフレットがよく置いてありますよね? あの中にはちゃんとデリケートゾーンの不快感についても書かれているんですけど……なぜかこれまで語られることが少なかったようです」

――私たちよりも上の世代はネットもありませんし、情報が少なかった。かゆみや痛みが出たときに不安だったでしょうね。

「いまも、更年期にそういう状態になることがある、ということを知らない人は少なくないと思います。突然の激しいかゆみに驚いて『もしかして性病?』と病院に駆け込む人も多いらしいですよ。久しく性行為をしていなくても」

――なんらかの菌が潜伏していて、今突然に発症した……と想像してしまうんでしょうか。そういう勘違いを防ぐためにも、更年期世代には膣や外陰部になんらかの違和感や不快感を覚える人もいる、ということを世間に広めていくというのは大切ですよね。

「知っておくと慌てなくてもすみますから。たとえば外陰部にかゆみや乾燥がある場合は、婦人科に行ってHRT(ホルモン補充療法)でホルモンを身体に入れることで収まる場合もあります」

――かゆい=皮膚科に行く。それで治るなら問題ないですけど、治らない場合は婦人科に行くという選択もあるよ、と。

「はい。HRT以外にも保険適用外ですが最近は膣レーザーという施術もありますよ。主に膣の乾燥が進行して膣や外陰部の萎縮してしまっている状態を改善することを目的とした治療で、レーザーを照射することで膣や外陰部の不快感の改善に高い効果があるようです」

かゆい=ゴシゴシ洗う、ではない
――痛みやかゆみ、匂いの変化などが表れると「ちゃんと洗えてないんじゃないか?」と、これまで以上にボディーソープをたっぷりとつけて念入りに洗ってしまいがちですが、あれは逆効果なんですよね?

「そうなんです。とにかくゴシゴシしない! これが大事なんですね。洗うときだけではなく、トイレに行って用を足して紙で拭く場合も同じ。私が行く婦人科では、トイレの壁に張り紙がしてありますよ。『ゴシゴシ拭かない!』『そっと紙を押し当てて水分を吸収させるように』って(笑)」

――幼い頃に母親に教わった教えを、更年期世代は再び思い出さないといけないというわけですね(笑)。

「エストロゲンが減少することで乾いていくのは髪や肌だけでなく、膣周りも同じですから。乾燥しているのに、ゴシゴシして刺激を与えるのはもってのほか」

――ゴシゴシ洗い、さらに乾燥を引き起こす。悪循環ですね。

「洗浄力が強すぎると肌って荒れちゃいますから。肛門は大腸菌があるので、きちんと石鹸をつけて洗ったほうがいいけれど。陰部は、ときにはお湯で洗うだけでもいいんじゃないかと私は思います」

――いまはデリケートゾーン専用のソープなどもありますが。

「必ずしも専用ソープを使う必要もないとは思います。なるべく低刺激のものを使うほうがいいのは間違いないんですけれど。わざわざ専用商品を使わなくても、肌に優しく自分が心地いいものであればそれを使えばいいと思います」

――乾燥防止のために、デリケートゾーンもお風呂上りに保湿対策を施したほうがいいですか?

「したほうがいいですが、これも深刻な乾燥状態ではない限り特に専用のクリームなどを使う必要はないと思いますが、粘膜に近いデリケートな部分ですので必ず粘膜を避けてテストして使用、自分の肌にあったものを。私も市販の顔やボディ用の保湿剤を、ありとあらゆるものを試してみた過去があります(笑)」

更年期世代の性交痛について
――かゆみやヒリヒリ感のほかに、更年期世代になると話題にのぼることが多いのが、性交痛。この世代になると「これまでなんともなかったのに、性行為に際して痛みを感じるようになった」という女性が多いようですね。

「エストロゲンが減ると、外陰部や膣の乾燥による普段からの不快感で性交自体が億劫になる方が増えます。普段からの乾燥に加え、性的に興奮すると出てくる潤いも減少することと、膣壁の弾力が失われることで、性行為の際に痛みを感じる女性が増えてくるんです」

――膣壁は本来コラーゲンが中にあって、ふかふかしたものなんですよね?

「ふかふかというよりは、膣壁の弾力がコラーゲンや水分によって保たれている状態ですね。それがエストロゲン減少によって、膣粘膜が乾燥、萎縮し膣壁が薄くなる。そのせいで性行為のときに出血する方がでてきます」

――「痛い」と一度でも感じると、次から行為そのものが億劫になってしまう。次第に性行為から遠ざかるようになり、「セックスレス」という問題をご夫婦で抱えてしまうことになりますよね。

「ええ。私の主治医である婦人科の先生は、性行為に関する悩みを相談される患者さんは非常に多いとおっしゃってました」

――性交痛に関しても「HRTでホルモンを補充することで解消された」とおっしゃる人は多いようですが……でもHRTはまだまだ抵抗感がある人が多いのが現状ですから。小林さんが販売されている潤滑ゼリーを使用する、というのは性交痛に悩む方にはとてもいい選択ではないかと思います。

「はい、夫婦やパートナー関係の改善のお役に立てたなら嬉しいなと思ってます。いくつになってもスキンシップって大切ですから。市場調査のためにネットショップの潤滑ゼリーの商品レビューを読んだりするのですが、けっこうなご年配だなと推測できる男性の方が『痛がる妻のために購入しました』とコメントされていたりしますよ」

知っておきたい、ローションの違い
――奥様のために旦那様が購入されているんですね! たしかに最近はネットで購入できることで手軽になったとは思うのですが。ただ、いろんな種類がありすぎて、どれを買えばいいのか迷ってしまう人もいるのではないでしょうか。

「ラブグッズと言われるローションは、大きく分けて2種類があるんです。ひとつは、ボディ上でヌルヌル感を楽しむもの。ラブホテルに置かれているのは、だいたいがこのタイプですね。そして、もう一つは挿入をスムーズにヘルプする、潤滑ゼリー/ジェルです。」

――量販店やドラッグストアなどでは、どちらも区別なく陳列されていることが多いです。性交痛のヘルプのためのローションを買う場合は、成分をチェックしたほうがいい、と。

「どちらも見た目は透明でヌメリがあるので紛らわしく、さらにどちらもローションとカテゴリされたり、呼ばれていることが多いので見分け方が難しいんです……。挿入に使用する場合は、一般的に水とグリセリン(又は似た成分)で構成され『潤滑xx』と書いてあるものを選んで頂くとよいかと思います。ヌルヌル感を楽しむローションは、成分表示の最初にポリアクリル酸ナトリウムが表示されていることが多いので判断しやすいです」

――潤滑ゼリーの量なのですが、どれぐらいが適量なんでしょう?

「適量はひとさし指の第一関節分ぐらいかと思います」

――どのタイミングで塗ればいいのかわからない、という声もあるようです。

「挿入する直前に塗るのがいいと思います。あと、塗るタイミングではなく、潤滑ゼリーを使おうよと最初に話すタイミングが難しい、というのは私もよく聞く話です。でも、最初だけですよ、気まずいのは(笑)」

――それで夫婦間やパートナーの関係が良好になるなら、使わない手はないですよね。

「次第にゼリーの存在が当たりまえになってきますから。性交痛で悩んでいるなら、男性も女性も恐れずにパートナーに潤滑ゼリーの使用を提案してみてほしいです」

潤滑ローションは、ふしだらなものなんかじゃない
――日本では、たとえ夫婦間やパートナー間といえ、性行為に関して話し合うということはまだまだ一般化されていませんものね。特に40、50代ではその傾向が強い。潤滑ゼリーを使いたいと話すと、男女とも「どこでそんな知識を覚えてきたんだ!?」と嫌悪感や抵抗感を示す人もいるかもしれないですね。

「そうなんです。ローションといえば、性風俗で覚えた遊び、というイメージが強いですし、あとは女性がそんなものを提案するのはふしだらだ、と思い込んでいる人は男女問わずにいるかと思います。だから私は婦人科のお医者様が積極的に勧めてくださったらいいのになと思っているんですよ」

――たしかに「お医者さんから勧められたから」と言えば、話もスムーズな気がします。

「ですよね。私の主治医は、患者さんからのそういった相談も多いので、積極的に潤滑ゼリーの存在を話してくださっているようですけれど、まだまだ……」

――性交痛はなにも更年期世代だけの悩みとは限りませんよね。

「そうです。若い方でも悩んでいる方は多いです」

――若い世代の性交痛にはどんな原因が考えられますか?

「そのときの身体のコンディションによる潤い減少が多いのかなと思いますけど……。ほかにたとえば子宮頚がんや内膜症など子宮に関連する病気、出産による会陰の外傷、膣の炎症、薬の副作用による乾燥など、原因は様々で多岐にわたります。初体験や出産で経験した痛みから『また痛いのではないか』という恐怖心がおこり、それが性交痛につながるケースも。あと、生理が止まるようなハードなダイエットをしている人は、エストロゲンが減少しているわけですから、濡れにくくなるようです」

――性交痛で悩んでいる方って、どれぐらいいらっしゃるんでしょう?

「弊社ホームページ上で、101名の方にアンケートを実施したことがあるんですね。『性交時に痛かった経験はありますか?』の問いに『ない』と答えた方は18名、『ある』と答えた方は82名でした」

――8割! 痛みに悩んでいらっしゃる方は、まずは潤滑ゼリーを試してみてほしいですね。

「はい。ただ、更年期世代の方で潤滑ゼリーを使っても痛みが激しい、出血するといった場合は、やはり婦人科に行ってみてほしいです。HRTのほかに、痛みを緩和する膣座薬などもありますから。入り口以外が痛い場合は、潤滑ゼリーで解決はしません」

――顔や肌と違って、デリケートゾーンって普段は気に掛けることあまりないし、鏡でじっくり見ることも滅多にない。でもある程度の年齢になるとそこも変化していく、ということを知識として知っておくことは重要――。改めてよくわかりました。キラキラするためじゃなく、自分の健康のために、ですね。

「その通りだと思います。デリケートゾーンを直視出来ない、という女性は多いようですが、時には勇気を出して鏡などでチェックしてみてもいいんじゃないでしょうか。定期的に確認すると変化にも気づきやすいかもしれませんから」

――今日はどうもありがとうございました。

<プロフィール>
▼小林ひろみ
うるおいヘルスケア株式会社 代表/メノポーズカウンセラー/化粧品成分検定上級スペシャリスト1級/女性の健康とワーク・ライフ・バランス推進員
【会員】
日本性科学会(JSSS)/NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア/NPO法人 女性の健康とメノポーズ協会/性と健康を考える女性専門家の会

最終更新:2018/03/30 12:50
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