『この地獄を生きるのだ』著者・小林エリコさん×『貧困クライシス』著者・藤田孝典さん対談(後編)

「私は悪いことはしていない」——生活保護から抜け出した女性が訴えたいこと

2018/01/30 15:00

長時間労働や低賃金、家族問題によって、40歳以下の受給者が増えている

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藤田孝典さん

――受給者が増えているということは、貧困層が増えているということですよね。

藤田 貧困が増えているし、40歳以下で精神障害のある方も増えている。長時間労働と低賃金と家族問題ですね。あとは、ストレスによるアルコールやギャンブルへの依存。受給者が増えている一方で、ケースワーカーは増えないのが課題です。

 また、昔の貧困は生活保護でお金だけ渡していれば、地域の人や民生委員さんなど、いろんな方がサポートしてくれていたのですが、現在はお金を渡しても、その人の孤立状況はなかなか解消されません。その分、ケースワーカーがなんでもやらないといけない状態があり、責任感の強いワーカーさんの中には、母子家庭の子どもの勉強を見たり、学校の送迎をしたり、入院患者へのお見舞いをしたり、一生懸命がんばりすぎてうつになる方もいます。

小林 私は病気になってから、ソーシャルワーカー(社会福祉士や精神保健福祉士という国家資格の有資格者の総称)の方と知り合う機会が多いのですが、みなさんすごくお給料が安くて、こちらが申し訳なくなります。病気の人にちゃんと電話をして訪問支援している方々が薄給なのが、すごく心苦しくて。お給料がもっとよくなり、「ソーシャルワーカーになりたい!」という人が増えれば、ワーカー不足は改善されるのではないかと思います。

藤田 本当にそうですよね。今はケースワーカーだけでなく、介護士、保育士も、
非常勤や低所得の方がすごく多いです。福祉事務所にも非常勤の公務員が増えてきました。少し前までは福祉事務所でケースワーカーとして相談を受けて支援をしていた人が、逆にうつになってしまうというのは、全国的に散見されている事例です。

――小林さんの本の中には、ケースワーカーさんが生活保護から抜け出す方法をなかなか教えてくれなかったとありますが、きちんと教えてくれる方もいますよね?

藤田 もちろんいます。ただ、ケースワーカーさん自身もあまり生活保護のことをわかっていない人が多いし、今、ケースワーカーの7〜8割は、経験が3年未満なので、知識や経験があまりないのだと思います。また、みんな総務課とか人事課とか税務課などの花形の課に行きたがって、生活保護課や福祉課に配属されると、すぐに異動願を出す人もいます。なかには嫌々ながら仕事をしている人もいるのが事実ですよね。

小林 生活保護課は、すごく対応がひどかったのが印象的でした。障害支援課だと、書類も「ここに記入してくださいね」などと丁寧に教えてくれるのですが、生活保護課だと書類を投げるように渡されました。課が違うとこんなに対応が違うのかと、驚きました。

藤田 僕もびっくりしました。僕は新宿と府中で、非常勤として福祉事務所に関わっていたことがありました。そのころ、僕は生活保護課の仕事を興味深いと思って取り組んでいましたが、周りの同僚には早く異動したがっている人たちが多かったと記憶しています。なかには生活保護受給者を下に見ているというか、見下しているような人もいて、そんな状況をなくさなければいけないと思います。

小林 積極的に福祉の仕事をしたくない人も世の中にいるのは確かですからね。華やかな職場で楽しくやりたい人もいるんでしょうけど(笑)。でも、藤田さんみたいに志の高いワーカーさんもいるので、希望を持ちたいですよね。

この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。
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