『この地獄を生きるのだ』著者・小林エリコさん×『貧困クライシス』著者・藤田孝典さん対談(前編)

「精神障害者になると思ってなかった」当事者が語る生活保護受給者の実情

2018/01/29 15:00

きちんとしたクリニックは、医師とソーシャルワーカーがチームになっている

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『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(イースト・プレス)

――小林さんが通われていたクリニックは利益重視のひどいところだったと本にも書かれていますが、きちんと治そうとしてくれるクリニックと、そうでないクリニックの見分け方はあるのでしょうか?

藤田 うーん(苦笑)。僕がずっと貧困問題に関わっていて思うのは、ソーシャルワーカーの方がきちんとクリニックに配属され、クリニックの運営に関わっているかどうかです。薬だけを大量に出すようなクリニックは「医学モデル」といって、医療中心なんです。一方、ソーシャルワーカーは、「生活モデル」として見ていて、どうやって生活習慣を変えたり、ストレス環境をなくしたりしていくかに取り組んでいます。

 だから、クリニックにソーシャルワーカーがどのくらい配置されているか、その人たちがちゃんと相談を受けてくれるか、仕事ができているかということで、僕らは判断をします。医師の質というよりは、ソーシャルワーカーがどのくらい活発に動いているかというところです。小林さんが通っていたクリニックには、ソーシャルワーカーさんはいたんですか?

小林 いたのですが、予約を取るのが大変で、2〜3週間待ちでした。藤田さんがおっしゃったような、ワーカーさんと関わったのは、生活保護を受けるときと、車で市役所を往復するときだけで、それ以外は特に困っている点を聞かれることはなかったです。

藤田 僕らが関わっている精神科のクリニックや、済生会の病院などは、医師とソーシャルワーカーがセットなんです。薬についても、医師と意見交換しながら処方について進めていっています。医師とソーシャルワーカーが一緒になり、チームのようにして関わってくれる病院だと、比較的安心で信頼できるかと思いますが、なかなか多くはないです。

小林 ずっとお伺いしたいことがあって、私はずっと男性のケースワーカー(福祉事務所や児童相談所といった公的機関で働く人)だったのですが、女性に替えてほしいと役所の人に言っても、一度も替えてもらえませんでした。そういう場合、替えてもらうことは難しいのでしょうか?

藤田 女性のケースワーカーさんがどのくらいいるかにもよりますが、今は一定数女性の方も増えていると思うので、そういう要望があったら聞いてあげてもいいと思います。生活保護は地区割で、住んでいる地域で担当が決まっています。それも1〜2年で担当が交代するんです。でも、DV被害や性被害の経験があって男性に家に来てほしくない事情があるなら、ケースワーカーを替える措置はあって然るべきだと思います。小林さんの本を読んでいても、女性のケースワーカーの方がいいのではないかと思いました。

小林 そうですね。やはり男性が家に来るのは、抵抗がありました。途中でケースワーカーさんが替わり、最初のケースワーカーさんは玄関口までしか来なかったのですが、次の方は、家の中に上がって「金目のものがないかチェックする」と言いだしまして……。

藤田 それは、はっきり言われるんですか?

小林 言いましたね。タンスの中まで全部見られるのかな……と不安になって、怖かったです。

藤田 法律的には「資産調査」といって、指輪や宝石類、今はなくなりましたが、株券などがないかチェックします。本当は資産があるのに受給をする方がごく一部いるので、それがないよう、調査が厳しくなっているんです。不正受給対策で、相談に来られた当事者を疑って見ることになります。でも、ほとんど大多数が相談に来た時点で困窮していますから、本当はすぐに支援しないといけないのですが、ごく一部の資産を持つ方に支給してしまうと、役所も叩かれます。

 生活保護法が改正され、12年以降は特に調査も厳しくなりました。調査をしっかりして、親族にも連絡をとり、扶養できるのかどうかを確認する「扶養照会」という動きも強まっています。

小林 私も、扶養照会で自分の親きょうだいから「扶養できません」と言われ、生活保護を受けました。

(後編へつづく)

(姫野ケイ)

最終更新:2018/01/30 15:17
この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。
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