薬を使わない医師が提唱する「育児ドキュメンタリー映画」が冷や汗モノ!

2017/12/19 20:00

〈マイ・3大トンデモドキュメンタリー〉が、ついに出揃いました。1本目は、2010年に公開された『玄牝(げんぴん)』。〈自然なお産の神様〉と呼ばれた吉村正医師(現在は引退)と、その産院の光景を追った作品です。2本目は、2013年に公開された池川明医師の主張する胎内記憶研究を紹介する『かみさまとのやくそく』。

 そして3本目、現在〈自主上映募集中〉という『甦れ命の力~小児科医・真弓定夫~』です。真弓定夫氏とは、自然派ママの間でもトンデモウォッチャーの間でも有名な〈自然派育児〉を推奨する小児科医(現在は講演活動のみで診療所は引退)。

「院内にはクスリも注射も置かない」ーーそんなナレーションで映画が始まり、真弓医師の活動をサポートする娘さんや、診療所に通うお母さんにより、人物像が語られていきます。診療所というよりは書斎といった雰囲気漂う雑然とした部屋に座る真弓医師の姿は〈穏やかな空気をまとった、おじいちゃん先生〉。

冷暖房が子供を病気にする!?
 しかし作品内で語られるトークは、さまざまな媒体のインタビューなどでも繰り返し発信し続けてきたトンデモとほぼ同様のものでした。ブレがないのか、新ネタがないのか。「必要があれば薬も処方する」と言いつつ主張するお説は次の通りです。

・自分が医師になった当時と比べると、人口は2倍になったが医療費は180倍! これは医者、保健所、教育委員会が間違った育児を広め、さらにお母さんたちがちゃんとした育児をしていないから、病気が増えたから。

・健康でいるためのお手本は、野生動物。加工したものを食べず、自分の手で集めたものを食べるべし。
→でも、加熱や下処理はよしとするのって不思議~。

・他の動物の血液(=牛乳)を子供に与えてはいけない。
→真弓氏が「お手本とすべし!」という野生動物は、血をすすりながら生肉を食らい、異種間で授乳するケースも報告されておりますが? ちなみに同作品では登場しませんでしたが、真弓医師は牛乳を「日本の素晴らしさに恐れをなしたアメリカが日本人を劣化させるために、アメリカが売り込んできた食品」であると訴え続けています。

・加工した空気も病気のもと。病院で生まれると、新生児のうちから空調で加工された空気を吸うから、自律神経がおかしくなり病気が増える。自然な状態から遠のけば遠のくほど子供は病気になる。
→極寒&灼熱の地に住む新生児にとってはどうなんでしょ? 自然素材で温度を調節する昔ながらの知恵があるとはいえ、過酷な環境下では〈自然〉より人工の環境下のほうがよっぽど体に優しそうですが。

・今は子供の低体温が大問題! 0~2歳の赤ちゃんは38~39度、2~6歳なら37~38度あったっていい。38度ない赤ちゃんは、低体温である。
→39度が平熱って大丈夫なのか~!?

 トークのすべてにツッコミを入れたくなるのですが、そんな人はもちろん登場せず、カメラはお説に賛同する人たちを追い続けます。

 中でも、真弓氏のお説を全面的に取り入れている神奈川県の〈麦っ子畑保育園〉が「もうこれがメインパートで決まりでしょ!」という存在感。

 極寒時を除き、基本的に冷暖房は一切せず、冬でも窓は開けっ放し。牛乳は飲ませず、食事は野菜たっぷりの和食。子供たちは冬でも半袖素足(小さい子はダウンなどを着てたけど)。クラスごとの教室はなく〈ごちゃごちゃ〉をあえて重要視して、大きい子が小さい子の世話をする。柵は低く門は施錠されていないが、勝手に出て行ってしまう子はほとんどいないetc……

 撮影時は認可外保育園だったようなので、これらの育児方針に納得した家庭だけが利用する特殊園だったのでしょう(撮影後、認可外に補助金が出なくなったことから、現在は認可化へ向けてリニューアル中とのこと)。

 鶏などの生き物と触れ合える園庭や、たき火を囲んでの朝食、早朝でも預かってくれるフレキシブルな対応など、「あら、ちょっと素敵……」と思ってしまう場面も多々ありました。が、保護者目線となると、大らかすぎる施設のセキュリティをはじめ、「うーん、怖い」と思う点のほうがどうしても多め。

 さらに給食のシーンになると「自然派はこうなるのか~」とますますげんなり。食材のありがたさを説くトークがナレーションで流れ、画面に映されるのは、ワンプレートに盛られた白米、ひじき煮、かぶ漬物、ごぼうのきなこ和え。し、渋い……という以前に、おかずの量、少な! たんぱく質足りるのかしらあ……。そしてそれを床で行儀悪く食べる園児たち(※椅子に座って食べている子もいます)。

園児たちは、これでいいの?
 そんな光景を観ていたら、劣悪運営で閉園に追い込まれた「わんずまざー」を思い出してしまいましたよ。もちろん「わんずまざー」は隠してやっていたことが大問題であり、衛生面も劣悪。一方麦っ子畑は安全を確保しながら、〈子供のため〉を前提に行い、育児内容も公開、保護者が納得の上という大きな違いがあります。

 しかし大人はよくても、園児たちは快適なのか? これって本当に〈健康にいい〉の? 当連載にて〈虐待レベルの自然派育児をしている義妹〉の話を寄せてくれたM子さんの後日談である、児童相談所に再び連絡してみたものの「愛情を持って行っていることであれば、介入できない」と回答されたなんて話も、頭をチラリとよぎりました。

 保育園シーンが終わると、〈昔ながらの方法こそが、健康であり真理!〉と謳うお仲間である〈自然なお産の神様〉と呼ばれた吉村医院に舞台を移します。何となく、ラスボス感。こちらも院長である吉村正氏本人に密着するのではなく、近しい人たちがエピソードを語るという手法です。

 吉村医院で婦長を務めていた助産師は、「自然なお産はお母さんも赤ちゃんもピカピカ」と、毎度おなじみすぎる、評価基準が大変主観的なイメージトークを展開。吉村医院で出産したお母さんは「ありのままでいさせてもらえて」と涙ぐんで語り、産後ハイがまだ続いているのかしらという印象。

 このパートで一番怖かったのは、出産直後の〈母子同室〉を重要視するという取り組みの中、母親が子供の顔色の異常に気づき、結果、心臓にトラブルがあったため提携の病院に搬送されたエピソードです。助産師はこの出来事を、

「吉村先生は、初めから病気がわかっていた。でもかけがえのない母子の時間を優先して、ギリギリのところまで待っていた!」

と壮大なドラマのようにそれを解説。現場にいたわけでもないし、いたとしても医療の素人である自分にはわかりようがありませんが、どうしてこれを美談として解釈できるのか……? お母さんは〈ギリギリのタイミングまで待ってくれてまで、貴重な時間を過ごさせてもらったこと〉を感謝しているようですが、それって子供の命よりも自分の満足度が優先されていますよね。巷で〈自然なお産〉が叩かれるのはまさにこの部分であるのですが、わざわざこのエピソードを持ってくるとは、まさか監督もアンチ自然派!?(いやいや)

続々登場するトンデモ有名人
 終盤では、真弓医師が高齢になったことにより、小児科を閉鎖するという流れで映画も終わりへと向かいます。麦っ子畑保育園への往診も、いよいよ引退。するとやってきた後任が……いやあ、前知識なく見ていたので「うお!」となりました。ホメオパシー推しの自然派医師として、これまた有名な豊受クリニックの高野弘之院長が登場したのですから(こっちがラスボスだったか)。

 画面に次々と現れる、その筋の有名人たちの姿は、猛者たちが続々と集う天下一武道会(byドラゴンボール)のごとし。上映中、思わず「うつみんと池川医師マダー?」と口走りそうになりました。

 唯一好感が持てたエピソードは、娘さんの語る〈家庭内でのゴキブリ騒動〉。自然界のものを人間の都合で良し悪しを決めるなという真弓医師は、菌に善玉菌も悪玉菌もない、菌は菌だ! 虫も同様! と主張し、ゴキブリを殺すこともよしとしないのだとか。いざ家族が殺そうとすると、ゴキブリに向かって「たけし、逃げろ!」と叫ぶそう。たけしとは、勤務医時代に8カ月で亡くなってしまった長男の名前。そう言われたら、仕留められませんよねえ……。ご本人は大真面目なのかもしれませんが、ブラックユーモアも感じさせるこの感覚は、ちょっと好きかも。

 結局作品全体は、自然派育児に賛同する人たちがそれぞれの視点から褒め言葉を口にした〈証言集〉という印象。うーん、ドキュメンタリーとしてはものたりない。タイトルにもある「生命の力が甦る」ということを、実践者たちの言葉ではなく、客観的にも納得できるよう映像で見たかった。強いて言うなら、自然派育児の素晴らしさは、たくましさたっぷりの麦っ子畑保育園の子供たちが証拠でしょ? ってことでしょうか。でも、あの姿が素敵かどうかは、子供たちの健康状態を知りようがない以上、完全に〈趣味〉の問題のような気がします。

現代医療は薬漬け、という信念
 上映後、会場にいた人たちと少し話をする機会がありました。すると、この映画を観に集う人たちの、〈薬=悪〉と思っている率の高いこと高いこと。「極力薬を使わない医師」という点が集客のポイントだったようです。

「真弓先生の存在を知ってはじめて、自分が子供たちを〈薬漬け〉にしてしまったことを理解して、本当に後悔している」

 そう話していた若いお母さんは、今は子供が病気になっても真弓医師のお説に従い基本的には病院に行かず、ハーブなどの自然派お手当で乗りきっているそう。

「薬を使えば使うほど症状が悪化して、断薬してからようやく日常生活が送れるようになった」

 というOLさんは、経皮毒の怖さも実感しているとのことで「真弓定夫氏のような医師がもっと増えてほしい」と語っていました。その他の方の話でも、「薬漬けになる現代の医療、怖い!」と、似たような意見が次々と。確かに処方された薬が合わない場合や、高齢者の薬漬け問題もあるでしょう。でも子育てというジャンルでそれを語るのは、ちょっと違うよな~と思いながら、帰路についたのでした。

 帰宅後何気なく「麦っ子畑保育園」の「口コミ」を検索してみると……やっぱり出た。「夏は熱中症で倒れる人(園児?)が出る」。だ・よ・ね~。真弓医師のお説を取り入れたご家庭のQOLも、心配になってきました。自分の過ごした〈古き良き時代〉でかたくなに〈ひとり鎖国〉をしているオモシロ先生の記録として観るにはオススメですが、この作品を日々の育児の参考にと思って観ると、「なんじゃこりゃ!」となること必至でしょう。

最終更新:2017/12/19 20:00
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