脳科学者・中野信子氏インタビュー

「大人のいじめ」は子どもよりも深刻!?  脳科学者・中野信子氏に聞く、上手な回避法

2017/11/24 15:00

1人だけ得をしているように見える人がターゲットに

 同調意識が高まった結果、そこから外れてしまう人を排除するというのが、いじめの正体だ。例えば、ファッションなどの見た目や、太っている、痩せているなどの身体的特徴がその集団から逸脱していたり、空気が読めずに場の雰囲気を悪くする発言を繰り返す人などが、いじめのターゲットになりやすいという。なかでも、大人社会でもっともいじめられやすいタイプは、一見周囲の人と似通った類似性を持ちながらも「1人だけ得をしているように見える人」だという。

「年齢や性別、職種、学歴などの類似性が高く、能力に差がないと感じられる集団の中で、なぜか上司に気に入られていたり、金銭的に恵まれているなど、1人だけ得をしているように見える人がいれば、妬みを買って、いじめに発展してしまう可能性が高いといえます」

 例えば、子どもがまだ小さいからという理由で、ほかの人よりも仕事を早く切り上げて先に帰るような人は、周囲よりも楽をして報酬や待遇を得ていると思われて妬みを買い、いじめに遭いやすいという。逆に、子育てしながら仕事をしている人が多い集団ならば、家庭のことを考えずに悠々と働いている独身の人を「楽でいいわよね」といじめるケースもある。

「いじめの対象は、その集団内の力関係や雰囲気によって流動的に変化する、複雑なもの。なので、本人が気づかないうちに、いつの間にか集団から逸脱して、いじめに遭うことも多いのです」

 さらに、実際に恩恵を受けていなくても「この人は将来ズルするかもしれない」と決めつけ、逸脱者を検知する脳の思考プロセスがあるという。

「とても嫌な呼び方ですが、『裏切り者検出モジュール』といって、集団内における将来的リスクを感知する能力が人間にはあります。特に日本人は、海外の人よりもその能力が高く、グループからはみ出しそうな人に対して、敏感に反応する国民性を備えているともいえるのです」

 同調圧力が強い日本社会では、ちょっとでも浮いた存在には、敏感に反応し、排除行動を仕掛けてしまう。また、その妬みの対象に不幸なことがあると、脳内で快感をつかさどる“線条体”と呼ばれる部分が活発化し、喜びを感じることもわかっているという。脳科学的にも「他人の不幸は蜜の味」なのだ。

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いじめがなくならないなら、せめて回避
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