映画『SCOPE』上映会レポート

性犯罪者は生きるために再犯するーー厳罰化で被害者は減るのか?

2017/06/03 15:00
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卜部敦史監督

 明治時代から110年間、変わらずにきた刑法がようやく「性被害の実態に即していない」という理由で見直される。現在、刑法の性犯罪規定部分に対する改正案が国会で審議されるのを待っている状況だ。強姦が「強制性交等罪」と改められる、対象が男性にも広がる、「非親告罪化」によって被害者からの告訴がなくとも起訴できるなどに加え、「厳罰化」も論点にあがっている。これまでは強姦罪における法定刑の下限は、懲役3年だった。改正案では5年に引き上げられている。これは、殺人罪の下限と同じ年数である。

 5月某日、性犯罪を題材とした映画『SCOPE』が東京・榎本クリニックで上映された。舞台となる近未来の日本では、刑期を終えて社会に出た性犯罪者を徹底的に監視するための「SCOPE(スコープ)法」が施行されている。主人公の篤夫は集団暴行の罪で逮捕され、6年間の服役を終えて刑務所を出所したものの、家族から拒否され、ひとり仕事を探す。離島の工場で働き始め、いったんは居場所を得たかと思ったが……。

 2010年に公開された映画だが、「厳罰化」について非常に多くの問いを投げかけているため、法律が変わりつつあるいま、改めて見られるべき作品である。

 上映後、同作の監督・卜部(うらべ)敦史さん、刑事訴訟法を専門とする白鷗大学法学部教授の平山真理さん、榎本クリニックに所属する精神保健福祉士、社会福祉士として、“社会の中での性犯罪加害者更生プログラム”に取り組む斉藤章佳さんの3名によるトークショーが行われた。その模様を一部抜粋してお届けする。

■社会の中で出所者を監視する法律は、アメリカや韓国にある

卜部 僕はもともとテレビで報道番組の制作に携わっていたのですが、事件報道は被害者にフォーカスすることが多い一方で、加害者の“その後”が取り上げられることはほとんどないと気づきました。彼らは出所後どう生きているのか? と考え始めたのと同時期に、日本でも性犯罪者監視法の導入が検討されていると知ったんです。社会からの監視はひとつのペナルティになるので、出所後の人にそれを科すのは“二重刑罰”にもなります。それが性犯罪者に“だけ“与えられるとしたら、どういう意味があるのだろう? 罪の意識を抱えながら生きている人たちを社会はどう受け入れていくのだろう……? 『SCOPE』は7年前に作った映画ですが、いまでも現在進行形で関心を持っているテーマです。

平山 とても挑戦的な映画ですよね。社会の中で出所者を監視する法律はアメリカのメーガン法がありますし、韓国では足首にGPSを装着させ、彼らの居場所が常に把握されています。もしSCOPE法が現実のものとなったら日本はどうなってしまうのか……と想像しながら見ました。また、主人公の篤夫が被害女性の父親に謝罪をしにいく場面がありますね。被害者と加害者が対話することで理解し合う“修復的司法”はいま各国で注目されています。ただ、それらの国でも、性犯罪事件にこれを適用するのは難しい、という意見が多いです。

斉藤 私も謝罪の場面に、考えさせられるところが多くありました。以前ある講演会で、お子さんを交通事故で亡くして、現在は被害者支援の活動をしている男性に、「加害者に、どんな謝罪をしてほしいですか?」と尋ねたことがあります。そこで返ってきた「謝罪はいらない。彼らにいずれ大切な人ができたら、自分が他人からどれだけ大切なものを奪ったのか、気づくことになりますから」という答えが思い出されました。

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