[サイジョの本棚]

ジョブズとウォズニアック、ユングとフロイト……“相棒”との出会いで才能が花開いたペアの6段階

2017/06/10 16:00

 人間関係の最小単位“2人組”。仕事、友情、恋愛……関係は違えど、深くて濃い1対1の関係を扱った本2冊を紹介する。

■『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』(ジョシュア・ウルフ・シェンク著、矢羽野薫訳、英治出版)
powersoftwo

 『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』は、歴史に残るような天才を、1人の才能によるものではなく、補完し合う「2人」の功績として捉え、分析を試みるレポート。

 画家ゴッホと弟のテオ、キュリー夫妻、ライト兄弟、「ビートルズ」のジョン・レノンとポール・マッカートニー、アップル社の共同設立者スティーヴ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアック、タイガー・ウッズとキャディのスティーブ・ウイリアムス、ダライラマ14世と個人秘書官――。芸術、科学、ビジネスなどさまざまな分野で偉業を残した人々には、直接/間接的に支えてくれた「相棒」がいる。本書では90組以上のペアについての資料やインタビューから、ペアの生まれ方、共通する傾向を探り、最終的には「普通の人々がクリエイティブ・ペアと出会う方法」について考察をしている。

 本書では、成功した2人組を“クリエイティブ・ペア”と呼び、2人が出会い、関係を発展させ、別れるまでの過程を「邂逅」「融合」「弁証」「距離」「絶頂」「中断」の6つの段階に分類している。それぞれの段階で章立てし、時代もジャンルも異なる複数のペアのエピソードを幾つも重ねていくことで、各段階に見られる特徴を浮き彫りにしていく。

 たとえば「邂逅」の章では、多くの偉大なペアは初対面時に「互いにあまり印象が良くない」か、「果てしのない会話が続く」かの2つのパターンが多いと分析。Googleの共同創業者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは「出会ってから数時間で激しい口論」となり、後にキュビスムを担う中心となるパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックは「不安をかき立てられた」。一方で、アップル社の共同設立者ジョブズとウォズニアックは、初対面のときから「家の前の歩道に座り込み、何時間もしゃべって」いたし、精神医学に大きな影響を与えたユングとフロイトも「初めて会ったときに『13時間、休みなくしゃべりつづけた』」という。

 偉人や著名人の評伝は数多くあるが、本作は、1対1で結ばれる“恋愛以外”での濃密な人間関係にまつわるエピソードが、時代もジャンルも超えて「関係性の段階」でソートされて膨大に詰まっている。天才たちのドラマのような関係性を堪能したい人は、必ず楽しめる一冊だ。

 さらに著者は、クリエイティブ・ペアの定型を明らかにすることで、孤高の天才ではなくても、普通の人が“相棒”と出会って天才になる道を探っている。自分のクリエイティブ・ペアに出会うには、どのような場所に足を運び、相手にどう振る舞うべきなのか?その考察が成功しているかはさておき、2人組のエピソードを大量に分析してきた著者だからこそ、表現を変えて繰り返される「本当の創造性は自分の頭の中ではなく、自分と他人の間に起きる化学反応から生まれる」という知見は聞く価値があるものだ。新たな仕事や、趣味に挑戦したい人にとっても、ヒントをくれる本になるだろう。

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