雑誌の官能特集に思う。官能的な女性になることと、お色気作戦はどう違う?

2017/03/02 20:00

バイブコレクターに加え、そろそろ「セックス特集ウォッチャー」も自称しようと考えている今日このごろ。しかし、寒い季節はいまひとつ活動の機会がありません。私のウォッチング欲も冬眠していましたが、3月、春の兆しとともにやってまいりましたよ。ネギを背負ったカモにも等しい好物件が! 「an・an」の「大人の女は知っている、官能の流儀」特集です。

 カバーではドラマ「カルテット」が好評の俳優・高橋一生さんが女性のバストにむぎゅっと顔を押し付けていらっしゃいます。あまり肌を見せている印象のない俳優さんですのでもうこれだけで刺激的ではありますが……なんとなくデジャヴ。

 ああ、思い出しました、同誌における俳優さん☓外国人女性モデルのベッドシーン的カバー、ちょっと構図がワンパターンすぎやしませんかね。

ジャニーズアイドルやAKBグループのメンバーもたびたびセックス系の特集でカバーに起用されていますが、異性との絡みはありません。異性と絡まなくたって色気やセクシーさは表現できるはずですが、だいたいが「肌を見せている」以上のものは感じられず、物足りなく感じていました。ただ脱がせるだけでは☓、構図が似通っていても☓とダメ出しばかりで恐縮ですが、私は単純に男の肌が観たいのではなく、男の肌が表現するエロスを観たいんです。

 果たして、高橋一生さんのグラビアページを拝見しところ、着衣のほうがセクシーだと感じました。裸体も思ったより筋肉質で男らしいのですが、たくしあげられたニットの裾から見えるヘソとか、顔の半分ほどを隠す勢いの前髪などのほうがよほど雄弁に彼のなかのエロスを語っているように見えました。

◎普通すぎる官能ポイント

 ……というのが、まさにこの後はじまる「官能の流儀」特集の前フリなのかもしれません。高橋さんのギリギリ半ケツを見て「きゃー、エロい!」「セクシーだわぁ♥」と思う人はいても「官能的だわ」と感じる人は少ないのではないでしょうか。いみじくも高橋さんはインタビューで「官能とは、隠されているもののような気がします」とお話しされています。

「大人の女は官能の嗜み方を知っている」というキャッチではじまる同特集は、なんとなくボヤッとしています。識者の方々の発言を引きながら、「官能とは“知的な遊び”である」「官能にひたることは“五感を使って思い出す作業”」「官能を身につけた女性は“老いても美しい”」と解釈を披露していますが、官能というものを特に深く考えたことない人でも「うん、知ってた」と思うレベルでしかなく、目新しさゼロ。

 続く「私が男に官能を感じる瞬間(トキ)」では著名人や読者へのアンケートに寄せられた官能ポイントが多数羅列されますが、「ニットやシャツを腕まくりしたときの筋肉」「手の甲の血管」「シャワーの後、髪を乾かす姿」といった、「う、うん、フツーだね……」といったリアクションしか取れないコメントがこれでもかと続きます。

いえ、ぜんぜんいいんですよ、フツーで! すっごいマニアックなシーンをあげられても共感しにくいですし。でも、ここでの“官能”は「色気」「セクシー」「萌え」と言い換えてもなんら不自然ではないものばかり。さんざん知性だと五感だと語った後だけにそれがあまり感じられない紋切り型の“官能”を語られたところで、肩透かし感しかありません。

 そもそも官能って何? 辞書的には「肉体的快感、特に性的感覚を享受する働き」ですが、「an・an」的には“エロいとかいうより、な~んかちょっと感度高く聞こえるっぽい言い回し?”ぐらいのものでしょうか。官能ってもっと掘り下げて考えると、現代の性に対する価値観がいろいろ見えてきて面白そうなのですが。

 全体的には、自分が“性的感覚”をキャッチするアンテナを養うための企画と、男性から官能的な女性だと思われるためのハウツー企画がごっちゃになっていて、どっちつかずの印象です。特に後者は、そのための小道具として採り上げられているのが、香り、お酒、ランジェリー……これまた見事なまでに紋切り型の“モテテク”ばかり! 知性はどこにいったのでしょう。官能というよりも“お色気大作戦!”といったほうがふさわしく見えました。。

◎官能小説入門ガイドブックとして読もう

 とガッカリ気分で読み進めたのですが、「小説で浸る、官能の世界。」はたいへん充実した内容で、官能小説ビギナーのみならず愛好家にとっても非常に役に立つ特集だと思いました。官能小説家の花房観音さんや、作家の宮木あや子さん、イラストレーターのいしいのりえさん(サイゾーウーマンで長らく官能小説レビューを連載されていますね!)などなど推薦者のラインナップもすばらしければ、採り上げられている作品も納得のものばかり。官能ではない文芸作品からのセレクトもあり、読み応えがあります。

 私もこれまであまり意識せずに“官能”“官能的”という語を使ってきましたが、たしかにそこには知的なニュアンスを込めていたような気がします。時代を代表する官能的な女性=“狂わせるガール”を紹介するページで、映画監督の大根仁さんが「エロの中でも官能って『やりてぇ』みたいに即物的なものではなく、それこそ『溺れたい』というもっと深いニュアンスを含んでいる気がします」とお話されていて、腑に落ちるものを感じました。

 官能とは、「エロい!」「セクシ~」「濡れちゃう♥」よりも、もう何段階か深いレイヤーにあるエロス。そこにたどり着くには知性あるいは美学の切符が必要……そう考えると私のなかでは、「官能とは、本能的なものとは最も遠いところから、性という本能的な欲求を刺激するもの」という解釈で落ち着きました。まどろっこしいですね~、焦れったいですね~。でもそれこそを愉しいと感じる大人の遊戯ともいえるでしょう。

「官能とは」という大きなテーマは読者が自力で行間から読み取る必要があり、それこそまどろっこしいのですが、官能小説ガイドとしては即戦力です。オススメ!

■ 桃子
オトナのオモチャ約200種を所有し、それらを試しては、使用感をブログにつづるとともに、グッズを使ったラブコミュニケーションの楽しさを発信中。著書『今夜、コレを試します(OL桃子のオモチャ日記)』ブックマン社。

最終更新:2017/03/02 20:00
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