みうらじゅん監督映画『変態だ!』において、元ヅカ女優とAV女優それぞれの裸体が表現するもの

2016/12/21 20:00

12月10日に公開された映画、『変態だ!』。企画・原作・脚本はみうらじゅん、監督は盟友の安斎肇が務めた同作は、ミュージシャンへの夢をあきらめきれない冴えないオトコと、その妻と愛人をとりまく愛憎劇で、過激な性描写で公開前から注目を浴びていた話題作です。

 シンガーソングライターの前野健太演じる主人公の妻役には、人気AV女優の白石茉莉奈が出演。愛人の薫子役は元宝塚歌劇団の男役スター、月船さららで、劇中のクライマックスである雪山でのSMセックスシーンを熱演しました。人間がとりつくろうことを捨ててその本質をむきだしにする場面を演じるとき、文字通りの裸をさらすことは作品にとって重要な要素。女優が脱ぐということについて、『変態だ!』をきっかけに改めて考えてみました。

『変態だ!』の主人公は、愛情あふれるセックスを楽しんだあとに一緒にお風呂にはいるような、仲のよいかわいらしい妻がいて、さらに子どもにもめぐまれながらも、独身時代から続く薫子との関係が断ち切れずライブとウソをついてラブホテルで薫子とSMプレイにふけっています。ほぼ全編がモノクロの中、妻とのセックスシーンと、終盤に主人公の変態性に“凌駕”されてしまった薫子の場面のみがカラーで展開されます。

「清く正しく美しく」がモットーの宝塚出身の女優が、劇団卒業後に映画でヌードになることは決して珍しいことではありません。娘役トップスターだった黒木瞳が映画『失楽園』でヌードシーンを演じたことはよく知られており、深作欣二監督の『おもちゃ』で映画に主演デビューした宮本真希は、身請けされる舞妓役に文字通り裸で挑み同作で東京国際映画祭の最優秀女優賞を受賞しています。

◎脱ぎすぎるヅカOG!

 月船は、1996年に宝塚歌劇団に入団し、男役トップスター候補として主要な役に起用されてきましたが2005年に宝塚歌劇団を退団。直後に篠山紀信撮影のヌード写真集を出版し、天願大介監督「世界で一番美しい夜」ではフルヌードや貞操帯姿も披露するなど、宝塚関係者が「現役生へのイメージがあるからほどほどにして」とこぼすほどの脱ぎっぷりのよさで知られています。

 「作品の中で意味のあるものなら脱ぐことをいとわない覚悟」は、アイドル女優などが演技派への脱皮を図る際の典型的な決意とよくいわれます。月船は宝塚在団中、劇団からの大きな後押しは受けていましたが、決して演技巧者であるとはいえませんでした。ただ、自分のやりたいことや築きたいイメージを確固として持っており、演じたい役を自分で作ると公言して演劇ユニットを立ち上げるなど、41歳になった現在も常に成長を追い求めている女優です。

 Sの薫子は「汚い顔こっちにむけんな」「おしりつきだせよ」と喜々として言葉責めし、ボンデージに装着したディルド(ペニバン)姿で主人公とのプレイを見せつけます。しかし、女優としてこの姿を人に見せてもいいものか真にためらわれるのは、過激な女王さま姿ではなく、雪山で主人公に引きずられながらピンヒールで歩く、みっともないへっぴり腰姿でしょう。雪の中でボンデージに着替える際のおなかがたるむ様子、寒さでのしかめっつらの不細工さも同様に。どれだけ責めさいなんでも、主人公が自分ひとりのものにならない慟哭の顔も、とても不細工でした。でもその不細工さゆえに、薫子の抱える哀しみが伝わってきます。

 女優としてのキレイな顔を見せるだけでなく、ノーメイク顔やブサイクな姿、それまでの自分が人間として蓄積したものを観客にさらせるかどうか。そのボーダーのひとつとして、「劇中で脱げるか」が女優にとっての覚悟となるのかも(または、覚悟とみなされるのかも)しれません。『変態だ!』は、自分の求める表現の仕方や役を模索して脱ぎつづけてきた月船が、表現欲求とともにやっとためられた経験を、最大限に活かせる作品だったといえるのでしょう。

◎AV女優が映画で脱ぐ意味

 では、裸で勝負するフィールドですでに高い評価を得ている白石が、改めて映画でヌードを披露する意味は何なのでしょうか。

 妻の登場場面は多くありませんが、ごく平凡な人間の中にこそ変態性が隠れていることを示唆するために重要な夫婦のベッドシーンで、白石の濡れ場経験値の高さは、前野のサポートに大いに役立ったことでしょう。すっぴんにみえる薄メイクのかわいらしさは、薫子のキツいメイク姿との対比もあり、作中の癒しでもあります。

 私生活でも母親である白石の、ちょっとユルめで豊満な体は強く母性を感じさせました。ユルさを無理に隠さないことと、体を披露し慣れていることによる身体性は、主人公夫婦の幸せな一面に、演技力を超える説得力で訴えかけてきます。

 平凡な幸せと、その中にある狂気と。どんな人の中にも存在するからこその、表現することのむずかしさ。そこに文字通り体当たりで望む女優たちの挑戦に心からの拍手を贈るとともに、人間のみっともなさをえぐりだす作品との新たな出会いを、観客としても大切に受けとめたいものです。

(フィナンシェ西沢)

最終更新:2016/12/22 20:23
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