「押し付けがましい母親だったと思う」アダルト業界で働き私生活でも性を探求した女性の子育て/神田つばきさん

2016/12/18 20:00

 今年、自らの人生を綴った書籍『ゲスママ』(コアマガジン)を出版した神田つばきさん、57歳。24歳で結婚し専業主婦として二人の娘を育てるも、38歳で子宮頸癌が発覚し子宮を摘出、夫に離婚を切り出した。当時12歳と8歳だった娘二人を連れて家を出ると、会社勤めをしながら性愛の探求に乗り出し、テレクラや出会い系にとどまらず、自ら企画してのAV出演も実行。驚くべき行動力で冒険を続けてきた彼女の、“ゲス”な“ママ”である部分が同書では記されるはずだったが、結果的に育児に関する記述はほとんど出来なかった。なぜなら、まず彼女のバックグラウンドにある“女の性の探求”について書ききる必要があったからだ。

 前編では子供たちの反抗、キレる母親だった自分、元夫との関係、実母と自分の愛憎などについて伺ってきた。後編は、「今も互いに向き合えているとは言い難い」という長女の話から始めたい。

▼前編
恋愛もAV出演もしながら2人の娘を育てた母親として。「子供に迷惑かけたけど、女としてやり直さないわけにはいかなかった」

身勝手で一人よがりな子育てだった

――上のお嬢さんは中学入学後からあまり自宅に寄り付かなくなったとおっしゃっていました。現在も、つばきさんと下のお嬢さんは同居しているけれど、上のお嬢さんはそこにはいないと。どのような関係性なんですか。

神田 もちろん学生時代は、出て行きっぱなしってことはないんだけれど、顔を合わせて大事な話し合いをしていても途中でもう出て行っちゃうので、最後まできちんとやり合えたことがないんですね。当時の葛藤や問題が棚上げになっちゃってるんですよね、お互いに。次女は私とそれをイヤになるほどやったので、今は平和に同居できているんですけど。長女とは、まだこれからやらないとダメですねぇ。これからの課題ですね。そのへんが複雑だったので、本から省いちゃいました、すみません。子育て本の予定だったのにね。

――まだ離婚される前、つばきさんは専業主婦のお母さんだったわけじゃないですか。たとえば学校の宿題とか見てあげるみたいな、そういう親子間のコミュニケーションって。

神田 してましたけど……そももが、私、すっごい押し付けがましい母親だったと思うんです。特に一人目の子供に対しては、そうでした。算数の繰り上がりを教えるためにわざわざキャラクターの絵を描いて説明したり。○○ちゃん(長女)が海賊に弟子入りして、宝石を集めるんだってストーリーまで作って、小さい石を10個集めると大きい石1個に変えてくれるんだよとか。最終的に繰り上がりを説明する絵本まで作ってて、今思えばあんなの迷惑だったと思うんですけどね。自分と夫だけが満足して、「素晴らしい子育て!ルルルル~♪」みたいになってて、子供は鼻くそほじくってるみたな、そういう感じでしたね。

ところが次女に対しては、彼女が8歳のときに離婚しちゃったので、もう自分がまず仕事しなきゃで手いっぱい。勉強を何も教えないどころか、たまに「宿題教えてあげる」って身を乗り出してきてはすぐキレてしまってた、私が。だからいずれにしても、自分は母親としてあんまり子供のことを見てなかったんですよね……。子供の身になって考えるとか出来ない、自分の身にばっかりになっちゃう、欠陥人間っていうところは否めません。

もともと「子供って苦手」と思ってましたしね。今でこそ成人した子供たちと会話は多いんですけど、彼女たちが小さかったときは「早く大きくならないかなぁ~」って毎日思ってて。

――子供が苦手って気付いたのは産んでからですか?

神田 もっと前から気が付いてました。自分が小学校くらいの時からかな。友達の様子を見ていて、「自分も大人になったらこんなの育てるのかぁ~、イヤだなぁ~暴れるしなぁ~」とか思ってたくらい(苦笑)。嫌な奴だったんですよ。あんまりおままごとのお母さんごっことかもしたがらなかったですね。

――でも24歳で恋愛結婚をして。子供を産むっていうことは、ご夫婦で話し合った?

神田 正直に言いますね、子供には悪いけど。結婚したときは、全く産みたくなかったです。そのうえ新婚当初からセックスレスでもありました。だけど、義母はやっぱり「息子が結婚する=赤ちゃん(孫)をもたらしてくれる」と信じていたから、「一体いつになったらできるの?」としょっちゅう言われました。私も私で、「出来るわけないですよ、うちセックスレスなんですよ、へへへ」とか言ってたんですけど(笑)。

――言ったんですか?

神田 言いました。お義母さんびっくりしてましたけど、切り返しがすごくて、「うちのお父さんはね今でも迫ってくるのよ、あの人と結婚すればよかったわね!」とか言われた(笑)。で、もうあんまりにも孫が欲しくて義母が「キィー!」とかなっちゃって、夫が「これは作る以外にないな」って言うんですね。私もそれで子作りをして。数年後、次女のときも同じ。「一人っ子じゃダメよ、変な子になっちゃう、キィー!」。で、セックスレスなのに、すると1回で出来ちゃいましたね。

――いつからセックスレスだったんですか?

神田 結婚して3カ月くらいから少なくなって……もう2年目からはあんまりしてなかったですね。私の迫り方も悪くて……「どうしてしてくれないの?」とか直球で聞くものだから。ムードとかないんですよ、私。ムードの出し方もわからなかった。でも縛ったりされたかったから、いきなりバンダナ渡して、「これで縛ってみて~」とか言って……夫には「本当に勘弁して」って言われてました。

――結婚するまではしていたのでしょうか?

神田 してました。結婚して家族にならなければ、セックスレスにはならなかったかもしれないけれど、毎日家に一緒にいると、やっぱりあんまり盛り上がらなくなってくるんですよね。よく聞く話ですし、そういうご家庭多いと思う。うちは特に、義母の仕切る大きな家で私は女兵士だったでしょう、だから元夫は、自分の中の男性性みたいなものを、ある程度隠して家に入らないと耐えられないんじゃないかなっていう感じがすごいあった。可哀想だったのは夫だったかも。

――お子さんが誕生してからは、専業主婦で家事育児をつばきさんが。

神田 そうですねえ。ああ、子育ての何が嫌だったかって、小さい子の相手をするのが苦手というのもあるんだけれど、実際に子育てして「あ、私はこれが嫌なんだ!」って思ったのは、<いい母親になるには親コミュニティの中で情報強者にならないといけない>っていうことでしたね。今で言うマウンティングのようなこと、昔からありましたから。私、人と仲良く出来ないの、大体。だけどものすごく気を遣って周囲と仲良くしてたんですね。

――本にも書いてありましたね、子宮摘出手術の前まではすごく気を遣ってたと。

神田 仲良く出来ないから気を遣っちゃうのね。ママ同士の付き合いだったり、PTAだったり、自分なりにちゃんとやった気ではいたんですけど、役員としての仕事だけやればいいってものでもなかったみたいで。もっとお母さん同士の情報を収集して、それこそ会話の中で取材しなきゃいけないみたいなルールがあるんですよね、そうしないと親子ともども浮いちゃう。親同士仲良くなりましょうねとか言って、家を行き来とかするんですけど、もう肩凝っちゃって。夫もそういうの苦手でしたから。

――自宅にも義母がガチャガチャ入ってきますしね、休まらないですね。

神田 唯一楽しかったのは、住んでたマンション内でのお母さん同士でのコミュニティ。みんなで旅行に行ったりもしたし、今でもたまに飲み会に呼んでくださったりとかして。

――それが楽しいのは子供が同じ学年とか同じ部活とかいう縛りがないからなんでしょうか?

神田 そう、仕事も子供の年齢もバラバラだし、国籍も色んな人がいたのね。みんなすごいの、ハッキリ悪口を言うの! 隣の奥さんが中国人の奥さんに「北京の空港、くっさいわね! 中国で売ってる洗剤が粗悪だからくっさいのよねぇー」って言うと、中国人の奥さんも怒るんだけど言い返して笑ってたりとか。私は専業主婦で、義母から働くことを禁止されていたんですけど、バレないようにこっそりテスト採点とか内職を請け負ってたんですね。次第にマンションの人たちも一緒にやるようになって、山ほど回ってくる用紙の束を皆さんに回す元締めみたいになってました(笑)。この間、20年ぶりくらいにそのときのマンションの友人に会ったら、「今でもあれ続いてるのよ。元締めは今誰ちゃんのお母さんがやってるわよー」と言われました。

子供の性への興味関心を肯定する

――お子さんの性教育についても、聞いてもいいですか。しました?

神田 しました、しました。子供が性的なものに興味を持ったときに言うのがいいな、って思ってたんですよ。性教育の適齢期ってひとりひとり違うはずだし、あんまり早いと傷つく可能性もあるので、子供が関心を持った時に言おうと。でも、上のお姉ちゃんはね、おませでしたね。幼稚園児の時に、「エロティックとは何か」って話を突然、してきたんですね。その意味を理解しているわけじゃなくて、この言葉を言ったら大人はギョッとした顔をするから面白いぞって思って、そのフレーズを使いたかったみたいなんですけど。「なあに、ママわからないから教えて?」と訊ねたら、「エロチックっていうのはね、私のハンコ注射の痕だとかケガした痕だとか、そういうことをエロチックって言うんだよ」。

――おお……。

神田 ビックリしましたね。で、「どういうことなの? それは嫌なことなの?」って聞いたら娘はニコニコして、「ううん、そうじゃないの」って。「なんか色んなことがあったその人、っていうことを、エロチックって言うの」と。えー、なんでそんなことを!? って思うじゃないですか。もしも性被害に遭ったりしてそういう言葉を教えられたんだとしたら大問題だとは思ったんですけど、でもニコニコして言ってるから、あんまり私が変な顔して探らない方がいいのかなと思って、「すごいのね~そうなのね~、じゃ、ママもエロティック大事にするね」って言いました。

次女は小さい時にそういうのがありませんでしたけど、あれは離婚してからですね、上が中1で下が小3の時に、ママだけになったからお金がないっていうのは可哀想だなと思って、張り切って沖縄旅行に連れて行ったんですよ。そうすると3人で同じ部屋に寝るじゃないですか。そしたらね、次女が変なことを言い出して。「ママ、おろちって知ってる?」って。「おろち? 何?」って言ったら、「えー知らないの? 自分で自分のことを触るやつ」とニヤニヤ。どうも、オナニーのことだったんですね(笑)。「カタカナのオで始まる」って覚えてて、オナニーのことを「オロチー」と間違えていたんです。

で、お姉ちゃんは中1なのでもうその知識があって「やだー気持ち悪い」と言ったんだけど、ここで罪悪感を抱かせると、ずっと親に隠す子になるなと思って、「お姉ちゃん、それは大事な話だからそんなこと言わないで。オロチーってどういうことをするの?」と下の子に話の続きを促したんですね。「自分で自分のパンツの中に手入れていじるんだよー」って言うから、「へぇーそうなんだー知ってるんだぁー」「うん、知ってるよやり方」「すごいねー○○ちゃん!」「すごいでしょー!」「でも手を洗って綺麗にしてからやった方がいいんだよ」ってやりとりをしましたね。それが彼女の性教育の最初の日だったんですねぇ。

――そのあと、彼氏とかが出来て、コンドームをつけましょうっていう話は?

神田 コンドームは、さりげなく生理がきたときに渡しましたね。もうセックスがどういう行為を意味するかも、コンドームをつけるものなんだということも、娘たちは友人との会話で知っているようだったので。コンドームを渡して「知ってる? こういうの」って聞いたら「知ってる」というから、「じゃ生理のセットも持つようになったからこういうのも、どっかなくならないところに持っておこうか、お守り代わりがわりだからね」って。

――お嬢さんたちのオナニーやセックスへの関心を否定しないように、というところが一貫してますね。

神田 否定しない、それだけでしたね。だからなのか、反抗期でも、彼氏ができたとか、何やったっていうような話は、中学あたりからオープンによくしてくれましたね。今は次女は「堅実な人と結婚したいんだけど、私はクズ男が好き。どうしよう」って言ってます。

――その状態だと、堅実な男性と結婚したとしても、堅実な夫を愛せなくて“クズ”と恋愛しちゃうんじゃないでしょうか。

神田 わーヤバイですね、それは。先日、次女はお友達の結婚式に招かれて行ったんですけど、「新郎が堅実なクズだった」って言ってました(苦笑)。おぼっちゃんなのに、それをいいことにクズになっちゃったっていう。

――つばきさんは離婚から数年経ってアダルトライターのお仕事も開始されているじゃないですか。雑誌って、寄稿すると見本誌が献本されてきますが……。

神田 「フリーライター」ってことは伝えてたんだけど、娘たちにはどんな雑誌に書いてるかは言っていなかったのね。でもまぁ、隠してても見るじゃないですか。家にSM雑誌とかエロ本がどんどん送られてきたら……。今思うとちゃんと子供には隠して、上手に嘘をついておいた方がよかったのよね。子供たちは母がそういう仕事をしていると知っても、それをお友達や先生には言えなくて、相当気を遣って隠してたみたいなので。

――内容がノーマルセックスより過激ですし体験記とかですもんね。

神田 だから子供はいっぱい、私のことで周囲に嘘ついてきたと思う、きっと。まだ判断力の育っていない子供の時期に、なんか親が隠してるから、自分も隠した方がいいのかなぁ……って色んなことを悩んだと思う。それはすっごい申し訳なかったです。全部隠しておいて、子供たちが大きくなったある日「バン!!」って一気にバレて、「実はお母さんはこれでお金稼いでるんだよね」って告白するのが一番よかったかなって思います、今となっては。

――あとがきで、お嬢さんたちには心に屈折のないフラットな状態で恋愛・結婚をしてほしかったんだけども、心の深いところにつばきさん自身とは違う別の屈折を残してしまった……って振り返ってらっしゃるじゃないですか。どんなところに屈折が?

神田 やっぱり、2人それぞれ違うんですけど、下の子は私と長女が争ってるのとかをずーっと見て育ってるから、なんていうかアメリ大陸に流れ着いたピューリタンみたいなところがあって、とても逞しい前向きなエネルギッシュな良い子なんですけど、どこかに正義があるって思ってるんですよね。それを相手にも押し付けると思うんです。それが心配です、親としては。そのために恋愛を楽しめない局面が出てきちゃったりするんじゃないかなぁとか、相手の男の人はどう思うんだろう、それが息苦しくならないだろうかとか、そんなことはちょっと思うのね。

――クズ好きで正義感が強くなると、確かに息苦しくしちゃうかもしれない。

神田 結局ね、彼女にとってクズが好きっていうのは、いわゆる麻薬をやる人が言ってるトリップなんだと思うんですよ。クズに振り回されてる瞬間だけは、ピューリタニズムを忘れられるんだと、きっとそういう感じなんだと思うんですね。自分のピューリタニズムがなし崩しにされちゃうことに、ものすごくエクスタシーがあるんだろうなぁって。

――え、この記事お嬢さん読んだら……読むかな。

神田 怒るかもしれないけど、本当に思ってることなんで。私からはそう見えているのね。

――あくまで、どう見えてるのかということですね、実態ではなく。

神田 書いちゃって全然いいです。私がここできれいごとを言って、「今は長女も結婚に向かって幸せに、キラキラ」とか書かれたら娘はイラっとするかもしれない。長女に関してはやっぱり、さっき言ったように反抗期が終わってない……私と長女との間の決着がついてないんですよね。彼女は家庭を作りたくて、子供も育てたい。でも、私がこんなだったから、子供との接し方っていうのがわからないんじゃないかと思って。そこが一番心配なところなんですよね。

――一度、お嬢さん自身が自分の子供時代を終わらせるための母親とのやりとりが必要なんですね。

神田 やらないといけない。彼女が私と会話していて一番多いのが「こうこうこうなんだから、私は間違ってないでしょ? お母さんが間違ってる」っていう話。だけどそれって、もう大人同士だし正しい正しくないなんて論じてないから、うまく折り合えればいいんじゃないの? って私は思うんです。

50代のセックス

――現在のパートナーの方とは長いですか?

神田 長いですね。東日本震災の1年前くらいからの付き合いで。私、震災の経験でようやく「男の人も人間なんだ」ってわかりました。彼らも感情とか、守らなきゃいけないものがあるんだなぁって。かつては父親不在の性の匂いのしない家庭で培った、男性への過剰な期待と憧れがあったんですね。誰かに自分だけを守ってくれる男になってほしかったんですけど、そんなことはあり得ないんだって。自分は自分で守ればいいのであって、自分のご主人様は自分だなって。

――もう緊縛活動もあまりしていないんですか?

神田 していないの。……やりたい気持ちはあるんですけど、自分のエロスの蓋をもう一回開けるのは怖いです、正直。今度は本当に死なないと気が済まなくなるかも。本当はエロスを追及したい気持ちはありますよ、欲望は。でも、もう自分に許可しないことにしました。

――セックス自体はなさる?

神田 もう平凡なやつを、今のパートナーと。平凡な、平凡にマニアックな(笑)。最近ちょっと忙しくて私が疲れちゃってて会ってないんですけど、平凡にバイアグラ飲ませたり(笑)。平凡で寝取られ願望の強い男で、平凡にAVが好きな男性です。

――寝取られですか。

神田 複数の男からヤラれちゃう私を想像して興奮するらしく、セックスの最中に、ヤッている最中ですよ? 誰もいないのに後ろ向いて、「おい、みんな! やっちまおうぜ!」とか言うんですよ。ビックリするんだけど、それを言うと硬くなるんですって。お互い50代なんですけど、セックスすると、疲れててもちょっと仕事のモチベーション上がるねって話をこのあいだしましたね。気持ちが前向きになるねって。色んなホルモンが出るみたいですね、やっぱりね。

――いいセックスしてるんでしょうね。

神田 う~ん、平凡な意味でのいいセックスを。オキシトシンがいっぱい出るような……。今日はいっぱい語っちゃって、スッキリしました。

最終更新:2016/12/18 20:00
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