[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」11月8日号

毒母問題において母娘が“共犯関係”になる理由を、「婦人公論」の特集に見た

2016/11/04 18:30
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「婦人公論」11月8日号(中央公論新社)

 今号の「婦人公論」(中央公論新社)、特集は「母と娘、年を重ねてどう向き合う」です。まずはおなじみの読者アンケートから。「『長生きして』から『死んでくれ』まで母への本音を明かします」というタイトルがもう刺激的。そして中身も刺激的。「あなたの母は『毒母』だと思いますか?」という質問には、なんと44%が「はい」と回答。「母に対する『心の叫び』」にも罵詈雑言があふれます。「お金の無心をしないでほしい」「近所に迷惑をかけないように」など“お願い”系ならまだいいほう。「死ね! 1日でも、1時間でも早く死ね! 消えろ! 消えてくれ!」「家に放火し、一家心中したい。一歩手前です」など、穏やかではないもの多数。しかもこれが「娘・75歳/母・96歳」だったりするので、この問題、根が深いです。

<トピックス>
◎特集 母と娘、年を重ねてどう向き合う
◎伊藤比呂美×信田さよ子 「冷たい娘」と責められても、衝突したほうがいい
◎木村多江 父の死から10年、ようやく母の苦悩がわかった

■冷たくなれない娘たち

 このアンケートを基にした対談が、「伊藤比呂美×信田さよ子 『冷たい娘』と責められても、衝突したほうがいい」です。信田は臨床心理士で母娘問題が専門、伊藤は女の欲望や葛藤を描いてきた詩人。

 一人娘として母親を介護してうつになった人、毎日電話で母親から悪口を聞かされる人、50代になってもなお母親から行先や帰宅時間を詮索される人、老いて生きる気力を失う母を見ていられない人……ここで取り上げられた母娘関係の悩みは「ヘルパーさんに頼めばいいのでは」「電話しなければいいのでは」「行先を言わなければいいのでは」などの言葉で片づけられがちですが、それが簡単にはできないからこそ、この問題がたびたび「婦人公論」にも取り上げられるのです。

 たとえば「ヘルパーさんに頼めばいい」と思っても、母親がそれを全力で拒否すれば「やっぱり娘の私が何とかしなければ……」となる。電話をしなければ「近所の人から、『お母さん「娘が冷たい」っておっしゃってましたよ』と電話が来たという女性もいました。この方も電話しないデメリットをよくお分かりなんだと思う」(信田)。「私に構わないで!」と突き放しても、「母親は娘を独立した存在ではなく、自分の一部くらいに思っているから、関わってくるのをやめません」(信田)。結局は自分が我慢をすることが一番最良の解決法か……となってしまうようです。

「アンケートを見ると、娘たちはみんな生真面目でやさしいですよね」(信田)
「そう。さんざんっぱら母親の悪口を書いていても、『母との関係で大切なことは』って質問には『思いやり』って書いてるし」(伊藤)

 「大事なのは『冷たい娘』になれるかどうか」とまとめられたこの対談。しかし50年、60年も“いい娘”をやってきた女性たちに「もっと適当に、いい子じゃなくても、あたしはあたしで生きていけますよと」(伊藤)という言葉は虚しく、だからこそ「1時間でも早く死ね」と親の人生の幕引きに平安を求めてしまうのではないでしょうか。

婦人公論 2016年 11/8 号 [雑誌]
優等生な娘は、たとえ母が亡くなっても引きずるからね~
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