精神科医・Tomy氏インタビュー(後編)

ホモフォビアの裏に潜む、「自分が性の対象になるかもしれない」という危機感

2016/08/17 15:00
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Photo by torbakhopper from Flickr

(前編はこちら)

■人間はよくわからないものを排除しようとする

――強いホモフォビア(同性愛嫌悪)を抱く人の中には、自分も同性愛者であるケースが少なくないようですね。倒錯的な感じがしますが、あり得る話ですか?

Tomy氏(以下、Tomy) それは十分あり得る話です。当事者によるフォビアはわりとある現象なんです。自分がそうであるからこそ許せないっていうのは結構あること。ただ、だからといって殺そうというところまでいかないですよね。そこに宗教的なことや、認めがたい環境があるということは想像できます。

――ホモフォビアは宗教的な背景を持っているケースと、「気持ち悪い」とか「抵抗感がある」という感覚的なケースがあるということですが、では同性愛について「なんとなく生理的に気持ち悪い」という感情はなぜ出てきてしまうのでしょうか?

Tomy 考えられることは2つあります。1つは、「一般的に無知なものに対して人は警戒する」ということ。人間には、よくわからないものは排除しようとする性質があります。それは本能的に正しいことなので、よくわからないものに関しては、とりあえず遠ざけたほうが安全であることが多いわけです。だから、「とりあえずちょっと気持ち悪い」とか、「ちょっと距離を置こう」というのは自然な反応なんです。

 もう1つは、自分が同性愛に興味があって、でも抑圧している場合、認めたくないから気持ち悪いっていう人がいます。

――興味があるのに、それを否定してしまうのは、なぜなのでしょう?

Tomy ちょっと興味があるからこそ、不安になるんですよね。これは、世間体を気にしたうえでの不安とはまた少し別の話で、人間は本当の気持ちを認めて不安定になるのが嫌で、自分の気持ちを“いろいろ加工する”という作業を本能的に行うことがあるんです。

 ちょっとニュアンスが違うかもしれませんが、好きな異性に対していじわるをしたくなるという感情に近いかもしれません。興味があるがゆえに敏感になってしまう。だから、自分は無関係だという主張をしたくて逆に強く否定してしまうわけです。

 こうした作用は「防衛機制」といわれるのですが、やり方はいろいろあって、そのひとつに「否認」があります。その気持ちがあることを認めないという、最もわかりやすい単純な防衛機制のひとつです。

 ただ、自分にとって都合の悪い話でなければ、否定する必要はないわけです。しかし、同性愛という性的指向を受け入れてしまうと自分が不安定になる、さらにそれが宗教の教義などで「悪」だと深く思想に刷り込まれている場合、ハードなフォビアにさいなまれてしまうということにつながってしまうのです。

■自分が性の対象になるかもしれないという不安感がホモフォビアに発展

――他に不安定な感情を引き起こす理由は、何か考えられますか?

Tomy 自分が恋愛対象にされてしまうんじゃないかと感じるときですね。たとえば、男性同性愛者の場合は女性より男性の方が、ホモフォビアが強い傾向にあると思います。女性的な感覚だと男性同性愛者っていう存在を認めてもなんにもリスクがない。むしろ女性の場合は興味深かったり、近づいてみたりすることもあるわけで親和性が高いです。逆に女性の場合は、むしろ、男友達がゲイだってわかったら、男女間にある緊張感から解放されますよね。しかし、男性にとっては自分が性の対象になるかもしれないという危機なので、割と過剰に反応する人が多いですね。女性にしてみればあまり不安な感覚にならないので、「気持ち悪い」というのは男性側が発する言葉なんです。

――自分が同性愛者かもしれないというより、同性愛者の恋愛対象になるかもしれないということでしょうか?

Tomy そうです。よく起きるのが、ストレートの友達にカミングアウトしたら、「俺はそういうの興味ないから」と、告白したわけでもないのに否定されるという展開。先に防衛線を張られてしまって、気まずくなってしまう。カミングアウトされた側は自分の存在が脅かされるというか、自分に不安定な要素が入ってくるということがなければ、わざわざ否定しなくてもいいことですからね。

 大抵の人にとっては、他者の性的指向なんてどうでもいいことなんですよ。同性愛だって存在するなら認めればいいじゃん、という話で済むわけです。そこであえて拒絶したり気持ち悪いという感情が芽生えたりするということは、どうでもよくはないということなんです。その存在を認めると自分にリスクがおよんでしまう、だから拒絶したほうがリスクから身を守れるとなんとなく考えて反射的に「興味ないとか」「気持ち悪い」と言ってしまうわけです。

――身近な人のカミングアウトをきっかけに、強く嫌悪感を持ってしまうことはあるんですか?

Tomy ゼロではないと思います。つまり自分の存在に関係性が生じてくると反発も強くなるわけです。別に同性愛者がいたっていいんじゃないっていう話であれば問題ないわけです。でも、自分たちが危機感を抱くようになると、反発って生まれるようになるんですね。これは宗教や民族の対立にも当てはまることで、別に多様性を認めたっていいんだけど、その人たちの存在を認めると、自分たちの存在が危なくなるってときに、だいたい反発や対立が起こるものです。

 だから、同性愛者の存在は認められても、同性婚を法制化すると反対が起こるというのは、それを認めてしまうと、社会性とか全体の流れが変わってしまってちょっと困ってしまうという危機感を感じている人たちいるということ。あまりにもスタンダードなものが変わってしまう流れになると、今までの制度の中で安心していた人が不安を感じる。その瞬間に反発が生まれるんです。

――そういう意味では、伝統的な家族のかたちが定着している日本で、同性婚が認められるまでの道のりはまだまだ遠そうですね。その一方で、同性愛者も生きやすい社会を作っていこうという動きは増していると思います。今後こういうふうに変わっていくと暮らしやすいんじゃないかというアイデアがあれば教えてください。

Tomy 同性愛をオープンにしている人とか、オープンにした方が生きやすいという人たちがいますよね。そういう人たちがオープンにしやすい環境をつくってあげることは大事です。ただ、クローズにしたいという人もいて、カミングアウトするかしないかというのは、どちらの方がいいっていう話ではないと思います。

 でも、オープンにしたいと思ったときに、オープンしにくいっていうのはよくないので、カミングアウトされたとしても「ああそうなの」くらいに普通に受け止められる人が増えることが望ましいですよね。そのためにも、まずはいろいろな性的指向を持つ人と接してみて、交流を持つのがいいのではないでしょうか。
(末吉陽子)

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Tomy(トミー)
精神科病院勤務を経て、現在はクリニックに常勤医として勤務する。オカマキャラで相談に乗るブログ「ゲイの精神科医 Tomyのお悩み相談室」が注目を集めている。著書に『アンタたち治るわよ!』(講談社)『おネエ精神科医のウラ診察室』(セブン&アイ出版)など。

最終更新:2016/08/17 18:06
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