子どもの虹情報研修センター・川﨑二三彦センター長インタビュー

年間30人以上の子どもが親に殺されている 親子心中事件は、なぜ起こるのか?

2016/08/02 15:00

■些細なことが死への引き金に

――精神の不調を抱えながらも頑張って生活している中で、何が心中の引き金になるのでしょうか?

川﨑 周囲から見たら、むしろプラスだと思えることが、本人にとっては重大な問題だということもあります。例えば、就学を迎えるお子さんの発達が遅れていて、母親は支援学級に行かねばならないのかと心配していた。結果的に普通学級で大丈夫だということになったのですが、それを喜んでいた矢先に母子心中を試みた。どうやら「普通学級で、いじめられるかもしれない」という不安が高まったらしいのです。

 ほかに、夫が、妻に挨拶をせずに無言で出かけたというだけで、母子心中を試み、子どもを死なせたという事例もありました。精神的な不調を抱えている場合は、ほんの些細なことが引き金になり得るのです。

■精神科と児童相談所の連携が防止策のカギ

――親子心中を食い止める手立ては、ないのでしょうか?

川﨑 心中以外の他の虐待事例ですと、子どもがけがをしていたなどの形で、周囲も前兆に気付くことができます。けれど、心中事件は前触れもなく起こることが多いので、食い止めるのが難しいのが現状です。加えて、親子とも亡くなってしまうと、動機などの原因追及も難しく、対策を立てる上での困難があります。

 防止策としてひとつ考えられるのは、医療機関と児童福祉機関との連携です。心中事件を起こした母親に精神科を受診していた方が少なくないため、児童相談所をはじめとする児童福祉機関や、地域の母子保健機関なども、各精神疾患の特性について、よく理解しておく必要があるかと思います。

――医療機関と児童福祉機関が、つながろうという動きはあるのでしょうか?

川﨑 厚生労働省の『子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について』第10次報告(平成26年)は精神疾患のある母親について特集し、「主治医は、精神疾患のある養育者のみならず、子どもを含めた家族全体を支えるという視点をもつことが重要であり、医療機関のみで抱え込まず、事例の状況に応じて市町村職員や児童相談所等へ積極的にアプローチ(継続支援を依頼)する」などの提言をしています。治療とソーシャルワークの支援が結びついていくことが、重要になってくるでしょう。

■子どもの命は親のものじゃない

――死にたいと思い詰めている人に、周囲の人ができることはあるのでしょうか?

川﨑 「人はそんなに簡単に死なない」と高をくくらずに、まずは苦しんでいる方の話に耳を傾け、悩みを受け止めてください。それから、苦しんでいる親御さんには厳しい意見かもしれないけれど、子どもを道連れにするのは虐待の最たるものです。「自分が死んだら、残された子どもがかわいそうだから」というのは親の勝手な理屈。子どもの生きる権利は、親の意思で奪うものじゃないということを肝に銘じてほしい。

 今年、児童福祉法の理念が変わり、子どもは「愛され保護される」という受け身の存在ではなく「生きて成長する権利を持つ主体者」とされました。自分のしんどさと子どもの生きる権利は、分けて考えなくてはいけない。親には、子どもの命を奪う資格はないということを理解してください。

■親子心中は放置された問題

――防止の取りかかりは、私たちの意識を変えることなんですね。

川﨑 親子心中を虐待と捉えにくい要因に、加害者も命を落としたりするため「気の毒だ」という意識が働き、話題にすらしにくいという点があるかと思います。しかし、児童虐待防止法が施行されて15年あまり、児童虐待に対するさまざまな施策が講じられる中で、年間40件近く起きている親子心中は、まだまだ放置された状態だといっても過言ではありません。私たちの研究からも、母子心中、父子心中の特性、背景要因に精神疾患の問題や借金が絡んでいる場合が多いことなど、ある程度の実情が見えてきました。したがって、この問題は児童相談所だけに任せるのではなく、社会全体で考え、取り組む。それが第一歩だと思います。
(穂島秋桜)

取材協力:子どもの虹情報研修センター

最終更新:2016/08/02 15:00
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