ペットと人のこれからを考える

「ペットブームは嘘」減少たどる犬の飼育頭数、ペット産業が抱える“悪循環”のウラ側

2016/08/28 18:30
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太田光明教授

 「ペットブーム」真っ盛りの今、メディアでは犬や猫がもてはやされ、ネット上にはペットの愛らしい動画が次々とアップされています。しかしその一方で、子犬を繁殖させるブリーダーが、何十匹もの犬たちを抱えたまま倒産する「ブリーダー崩壊」は後を絶たず、飼い主の見つからない動物の殺処分が問題視されているのも事実。それを受けて、行政が「殺処分ゼロ」を目標に掲げたというニュースも日々流れるなど、なにかとペット業界の動きを耳にします。

 私、ライターの和久井香菜子は前々から、ペット産業について疑問がありました。数年前、家族がペットショップで柴犬を購入。その子には股関節に障がいがあり、そして「噛み癖」もひどく、激しく噛まれるので、手を出すのもためらわれるほどでした。そんな身近なペットとの関係性から、健康とはいえない犬に、なぜ高額の値段がつくのか? なぜ人は、そうした犬を買いたいと思うのか? そもそも、生き物に値段を付けることは正しいのか? また「噛み癖」は、幼いうちに親犬から離された子犬に起こると聞き、ペットの福祉・権利を取り巻く状況にも関心を持ちました。

 そこで、ペットに関する短期連載を行い、動物の命を扱うこと、動物愛護、動物と暮らすことについて考えていきたいと思います。初回は、ペットと人間との関係を研究する、東京農業大学農学部バイオセラピー学科の太田光明教授に“ペットブームの現在”についてお話をうかがいました。

――最近のペットブームについて、どのようなお考えをお持ちかお聞かせ願えますか?

太田光明氏(以下、太田) まず、メディアではペットブームと言うけれど、飼育されているペットの総数は減っているんですよ。

――冒頭から、いきなり予想外です。

太田 猫の飼育数はほぼ横ばいですが、犬は2007年の1300万頭をピークに減り続け、今は980万頭ほどです。毎年30~50万頭近く減り続けています。今、飼い犬の平均年齢は14.5歳なので、このペースだと、10年以内に犬は700万頭になるでしょう。小動物の獣医さんが全国に1万1,000件ほどありますが、そのうちの3割は潰れるかもしれません。

 にもかかわらずブームと言われる原因の1つは、テレビ。北海道犬が出演するSoftBankのCM以降、CMに動物が多く登場するようになりました。また、バラエティ番組では、視聴率が落ちると「動物特集」を放送する傾向があります。年3回くらい、そういう時期がやってくるので、そのたびに特集を組む。今はもっと頻度が高いかもしれませんね。動物ものの番組なら、ご飯を食べながら見られるし、どぎつくないから子どもにも安心して見せられるというメディアの内情が見えます。こうしてペットブームといわれるようになったのでしょうが、実態とはかけ離れているんです。

――どうして犬ばかりがこんなに減っているのですか?

太田 1つは値段です。ペットショップでは、子犬1匹50万円なんてざらで、そんな値段の犬を買える人はそうそういません。売れないから供給量は減り、値段が上がります。猫は犬ほど高くはありませんが、30~40万円はざら。猫は売れているので、本来は値段を上げる必要がないはずなので、便乗値上げですね。

 また住宅環境の変化もあるでしょう。昔は一戸建ての屋外で飼っていましたが、今はほとんど室内飼いです。ペット可のマンションやアパートは増えてきましたが、住宅供給公社をはじめ賃貸や集合住宅には「ペット可だが10kg以内」と制限があります。ラブラドール、レトリーバーなどは20kgを超えますから、賃貸ではまず飼えません。「猫ならいい」という大家さんは多いので飼育数も横ばい、同じ理由で、ハムスターや兎、鳥の飼育数は減っていません。

――外国人に「日本で驚いたこと」を聞くと、よく「犬が小さい」と言われます。小型犬がやたら多い印象です。

太田 昔は、ペットに役割があったんです。犬は番犬として飼っていたので、体も大きかった。猫にもねずみ取りという役割がありました。古い木造の家にはネズミがいたので、猫を飼うと極端にネズミが減ったわけです。

――今はそんな理由でペットを飼う人はほとんどいませんよね……。

太田 現在は、購入・飼育費にお金がかかることから、犬を飼うことは“ステータス”になってしまいました。日本の犬の飼い方は明らかにおかしい。今は“飾り”のように扱われています。小型犬ならえさの量も少なく、お金もかからないので飼いやすいと思われがちですが、本来40kgあった犬の原種を小型化したため、遺伝病も多いんです。また、子犬は皮膚病にもかかりやすいし、目に見える病気はお金に余裕のない人でも病院にかかりますから、維持費がかかるんです。

『ペットへの愛着』
猫や犬好きをやたらアピールをする人は増えてる
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