映画レビュー[親子でもなく姉妹でもなく]

「文化」という階級が女を苦しめる? 『藏』に見る、女たちが手を取り合う困難さ

2016/07/31 21:00

◎姪の「母親」以上になる叔母
 地主で蔵元の田ノ内意造(松方弘樹)の一人娘の烈は、母の加穂(黒木瞳)が病弱であったため、その妹で独身の佐穂(浅野ゆう子)が養育係となって成長した。だが小学校入学直前に、いずれ失明に至る不治の病に冒されていることが判明。結局学校に通わず、佐穂が読み書きや裁縫を教えることになる。

 加穂は妹の佐穂に、自分が死んだら意造の後添えになってくれるよう遺言を残して死に、佐穂もその心づもりでいたところ、意造は意外にも若い芸妓のせき(夏川結衣)を後妻に迎える。居場所がなくなった佐穂は田ノ内家を出るが、父に激しく反発した烈が1人で佐穂を追いかけ、この騒ぎで彼女は田ノ内家に戻ることになる。
 
 8人の子を幼くして失った末、やっと産まれた女の子に、父の意造が授けた名前「烈」。「男でも女でもこの名前を」「いかなる困難や苦労にも負けない強い子に」との親の願いの通りの人生を、烈は歩んでいく。「目の不自由な自分が一番になれないのは嫌だ」と小学校入学を拒否するほどプライドが高く、せっかく作ってもらった眼鏡を橋の上から川に投げ捨てるほど気性が激しい。諌め慰める父母に真っ向から反論し、慕っている叔母の佐穂を追って家出する向こう見ずな面もある。幼くして過酷な運命を背負うことになってしまった彼女の中には、いつも小さな嵐が渦巻いている。

 そんな彼女を叔母の佐穂は、ある時は優しくある時は厳しく、親身になって面倒を看る。自分を追いかけてくる幼い烈の姿を見つけて、発車した汽車から飛び降りるシーンはちょっとドラマチックすぎるものの、2人が母子同様の深い愛情と信頼で結ばれているさまは、これでもかというほど伝わってくる。

 美しい娘に成長した烈(一色紗英)が自分の将来に不安を覚えれば、「結婚もできるし子どもも産める」と励まし、急激な視力低下に烈が絶望して自殺を図ろうとした時は、体当たりで阻止し叱咤激励。ほとんどヘレン・ケラーとサリバン先生さながらの緊密さだ。「何でも思う通りにやりなせえ」という佐穂のエールは、烈の中に人一倍強い決断力と自立心を育てていく。叔母と姪の関係のみならず、若い女性とその背中を押す年上女性の関係としては、理想的に思える。

 烈の母親代わりとなっている佐穂は、いずれは姉の遺言通り意造の後妻となり、名実共に烈の母親になれると思っていた。密かに意造にあこがれていた彼女が、「大事な話があるので、今夜自分の部屋に」と言われ、その前に湯に浸かるシーンで、彼女の膨らんだ期待がわかりやすく表現されている。

 だから、意造が若い芸妓を選んだことへ落胆した佐穂と、何も知らずに嫁いできたせきが親密なシーンは、一度もない。「意造の妻、烈の母の立場を、せきに取られた」という落胆を、賢明な佐穂は表には出さなかったが、心の中に小さなしこりとして残り続けただろう。烈はもとよりせきに馴染まず、「将来、おばさまと2人で一緒に暮らす家がほしい」などと言い出す始末だ。

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