『痴女の誕生』著者・安田理央氏インタビュー

「痴女AVは男と女で作り上げた」――男性向け/女性向けに分断された、エロのこれから

2016/07/03 16:00

――痴女が証明したセックスの「責め」と「受け」のジェンダーレス化が、本書の第5章「男の娘の時代」で、さらにまた別の可能性へと続くわけですね。ほかでは、痴女と同じような誕生の仕方をしたジャンルはありますか。

安田 コスプレでしょうか。女性自らやりたがる人も多いし、男性も女性にやってほしいと思うものですよね。例えばセーラー服。実際の高校だと、今はほとんどがブレザーのため、セーラー服を着る機会がないから、着てみたかったという女性もとても多いと思います。アニメやナースといったコスプレも、男性が頼まずとも、自らの意志で「やりたい」と思う女性もいるはず。このあたりは、アイドルによる刷り込みがあるのかもしれないですね。今後も探究の余地があると思っています。

■女性誌のセックス特集が見えなくさせているもの

――痴女誕生には、女の「責めたい願望」が深く関わっているとのことですが、女性向けTL(ティーンズラブ)コミック界では、「ドS男子に責められる女子」という設定が定番化しています。男女ともに受け身体質の人が増えているとも捉えられますが。

安田 単純にみんな疲れていて、受け身の方が楽だからじゃないでしょうか(笑)。でもいろいろな人の話を聞いていると、女性の方が相手の反応を見るのが好きで、相手に悦ばれると興奮するという人が多いですね。また、相手がSだったらMになるし、MだったらSになれるという人も少なくないです。男性は割と自己満足というか、責めるにせよ、責められるにせよ、自分本位が強いかなと思います。AV女優の中にも、「最初は痴女プレイの良さがわからなかったのに、今では男性が感じている姿で濡れる」という人もいます。女性の場合は、痴女タイプかそうでないかというのは、表裏一体で紙一重なのかもしれないですね。

――現在の女性誌のセックス特集では、女性が自らセックスを楽しもうというよりも、パートナーに捨てられないためのテクニック指導が多いように感じます。

安田 確かに、いかに男性に奉仕するか、いかにつなぎ止めるかといった方向にどんどん進んでいますね。男性としては別に構わないけれども、女性たちは本当にそれでいいのかな……と思う部分もあります。でも「巨乳が好き」と言っている男性の奥さんは、別に巨乳じゃなかったりするじゃないですか。男性をつなぎ止めるのはセックスだけではないのは明らかなのに、セックスに囚われてしまっている。

 痴女が誕生した背景のように、男女の性の価値観は重なっている部分がすごく大きいです。女性誌に限らないのですが、そうしたことを見えなくさせて、「男性とはこういう生き物」「女性はみんなこれが好き」と完全に差別化させるのは、ちょっと違うかなという気がします。男性向けとされているAVで興奮する女性もいるし、女性のAV監督も増えている。男と女はセックスで絶対にわかり合えないということはないし、今後はもっとその考えが世間的にも強くなっていってもいいと思います。
(石狩ジュンコ)

安田理央(やすだ・りお)
1967年、埼玉県生まれ。ライター、アダルトメディア研究家。主にアダルトテーマ全般を中心に執筆。AV監督としても活動している。著書に『エロの敵 今、アダルトメディアに起こりつつあること』(翔泳社、雨宮まみとの共著)などがある。

最終更新:2016/07/03 16:00
『痴女の誕生 アダルトメディアは女性をどう描いてきたのか』
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