精神科医・片田珠美氏インタビュー

自己愛が暴走すると“危険人物”に!? 精神科医に聞く、欲望をコントロールする方法

2016/06/21 15:00
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精神科医・片田珠美氏

 自分自身のことを大切に思う気持ち、それは「自己愛」と呼ばれ、心豊かに生きるためには欠かせない感情だといわれている。しかし、自己愛が強すぎると、自分を実際よりも良く見せたい欲望が肥大し、コントロールが利かなくなり、社会生活にさまざまな支障を来すことがある。そして、ときに人に危害を加える事件にまで発展してしまうことも。

 やっかいな自己愛の暴走に警鐘を鳴らしているのが、精神科医の片田珠美氏である。著書『自己愛モンスター 「認められたい」という病』(ポプラ社)の中では、過剰な自己愛が発端となって起きたストーカー事件や殺人事件を分析しながら、我々の中に潜む自己愛の正体について解き明かしている。ときに他人をも傷つけてしまいかねない自己愛の取り扱い方について、片田氏に聞いた。

■他者に惑わされない価値観を、しっかり持つ

ーー著書の中に「自己愛が肥大し、欲望をコントロールできなくなった人はモンスター化しやすい」とありますが、欲望が暴走するおそろしさはどういったところにありますか?

片田珠美氏(以下、片田) どんなことにもプラス面とマイナス面がある、と考えた方がいいと思います。たとえば、芸術家として成功している人たちは「いい絵を描くためには、人を殺すことさえも厭わない」といった思考を持っていることもあります。常識から、かなり外れた人が多いわけですね。絵を描くことに限らず、ひとつの欲望を追求していくと、かなり偏った思考に陥りかねないのも確かです。

 それがクリエイティブな方向にいけば許される面もありますが、そうではなくて「事件を起こす」という方向にいく人もいるわけです。ストーカー事件などは、まさにそうですね。人間関係や女性関係が乏しいという側面もあるのかもしれませんが、1人の女性に執着し、拒否されると、「自己愛」が傷つき、「許せない!」となって暴走する場合は極めて危険ですね。ほとんどの人は天才ではないので、自分の欲望をいろいろなところに分散しておかないと、エネルギーがひとつの方向にいってしまい、周りが見えなくなってしまう可能性が高いのです。

――では、欲望をうまくコントロールするうえで、自分自身とどのように対峙するべきでしょうか? また、コントロールする力を鍛えることはできるのでしょうか?

片田 「おいしいものを食べたい」「素敵な異性と付き合いたい」「お金儲けをしたい」というのは、人として自然な欲望です。でも同時に、すべての欲望を満たすことは不可能です。そのため、人はその都度、自分にとってどの欲望が最も重要なのか、必要なのか、優先順位をつけます。

 ひとつの欲望にエネルギーを集中させないことが、暴走を食い止める予防策になるといえるでしょう。それができないと欲望のコントロールが利かなくなり、モンスター化してしまう危険があるのです。

 また、欲望は、自分にないものを他人が持っているのを見て欠乏感を覚えると、ますます肥大します。そのため、自分自身が他者に惑わされない価値観をしっかり持つことも大事です。

■舛添氏は高学歴の人に多い「傲慢症候群」

――著書の中では「快楽原則」と「現実原則」をはかりにかけて、「現実原則」を優先できる人は社会に適応しやすいという趣旨のことを書かれていますが、それはなぜでしょうか?

片田 「快感原則」とは、わかりやすく言えば「欲望のまま、子どもっぽく行動すること」です。反対に「現実原則」とは、「大人として理性的に考え、現実的な対応をすること」です。現実社会で生きていくためには、現実原則が勝っていることが望ましいわけです。ところが最近は、この2つをはかりにかけて、うまく行動することができない若者が増えています。

 今の社会は将来が見えにくいうえに、欲望が肥大しやすい時代です。「あきらめないで」というメッセージを込めたCMに端的に表れているように、化粧品をはじめ、何から何まで、欲望をかき立てることで購買意欲を高めようとしているからかもしれません。

 また、経済的にも右肩上がりではないので、今日よりも明日がいいとは到底思えません。そのため刹那的になり、「快感原則」と「現実原則」をはかりにかけたときに、長い目で見て「現実原則」を優先させることができません。閉塞感も漂っていて、これから未来が開けるとは思えず、視野が狭くなりがちです。そのため「快感原則」に支配されやすく、自己愛が暴走してモンスター化しやすいのです。

――最近、政治資金の「公私混同」疑惑で東京都知事を辞職した舛添要一氏について、片田さんは「おごり」ゆえに暴走する傲慢症候群や自己愛性人格障害である可能性が高いと指摘されています。その根拠について、教えていただけますか? 

片田 傲慢症候群は診断基準が14項目あるのですが、そのうちの7項目は自己愛性人格障害とぴったり重なります。舛添氏の場合はもともと自己愛性人格障害だったのですが、権力の座に就いたことで勘違いして暴走し、傲慢症候群に陥ったのではないかと思います。組織のトップになると、少々のことは許されると思い込んで、特権意識を抱きやすいので、軌道修正が難しく、傲慢症候群になりやすいのです。高学歴の人に傲慢症候群が多いのは、若い頃の努力に見合うだけの見返りが欲しいという欲望が強いせいでしょう。

<傲慢症候群の診断基準14項目>
(1)自己陶酔の傾向があり、「この世は基本的に権力を振るって栄達を目指す劇場だ」と思うことがある
(2)何かするときは、まずは自分が良く映るようにしたい
(3)イメージや外見が、かなり気になる
(4)偉大な指導者のような態度を取ることがある。話しているうちに気が高ぶり、我を失うこともある
(5)自分のことを「国」や「組織」と重ね合わせるようになり、考えや利害も同じだと思ってしまう
(6)自分のことを王様のように「私たち」と気取って言ったり、自分を大きく見せるため「彼は」「彼女は」などと三人称を使ったりする
(7)自分の判断には大きすぎる自信があるが、ほかの人の助言や批判は見下すことがある
(8)自分の能力を過信する。「私には無限に近い力があるのではないか」とも思う
(9)「私の可否を問うのは、同僚や世論などのありふれたものではない。審判するのは歴史か神だ」と思う
(10)「いずれ私の正しさは歴史か神が判断してくれる」と信じている
(11)現実感覚を失い、ひきこもりがちになることがある
(12)せわしなく、向こう見ずで衝動的
(13)大きなビジョンに気を取られがち。「私がやろうとしていることは道義的に正しいので、実用性やコスト、結果についてさほど検討する必要はない」と思うことがある
(14)政策や計画を進めるとき、基本動作をないがしろにしたり、詳細に注意を払わなかったりするので、ミスや失敗を招いてしまう

(085)自己愛モンスター: 「認められたい」という病 (ポプラ新書)
想像力が大事
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