「教科書にLGBTを!~学習指導要領を変えよう5・17シンポジウム~」レポート

教科書にLGBTが必要な理由 多様な性の理解における学校教育の重要性

2016/06/06 15:00

■結局は、その人個人を知ることが大事

 現在、渡辺准教授は現場の教師の協力を得て、性の多様性を教える実験的な授業を行っているという。

 中学2年生を対象にした授業では、『もしも友達がLGBTだったら』というDVDを視聴。自分の性的指向に気がついた主人公が、理解を示す父親と真っ向から否定する祖母の間で揺れ動くという内容を受けて、「あのおばあちゃんに、どうやって理解してもらえばいいか」を生徒が考え、ディスカッションを行ったという。また、「性的マイノリティ=オネエタレント」と理解している生徒が多いことを踏まえて、一見“普通”に見えるゲイの人が自分の経験を話しながら、生徒たちの質問に答えたり対話をしたりする機会なども設けたそう。

「例えば、ゲイの人は質問されるだけではなく、『みんなはどうなの?』『セクシュアリティに気がついたのはいつ?』と問いかけます。特にマジョリティに当たるヘテロセクシュアルやシスジェンダーの生徒たちは、自分のセクシュアリティについて意識していないんですね。ほかにも『どんな人が好き?』という質問を投げかけながら、同意したり自分の意見を言ったりする。そうしたやり取りを通して、性的指向や性自認をマジョリティとマイノリティで分けていた線が、自分とゲストを同じ側に分ける線になったり、マジョリティの中にも新たな線が引かれたりする。それによって生徒たちは『結局は、その人個人を知ることが大事なんだ』と気づくのです」(同)

 こうした授業を展開したことで、教員にカミングアウトする生徒や、性のグラデーションについて学んだ内容を新任教員や保護者に教える生徒が現れるなど、多くは性の多様性を学ぶ意義を実感したという。また、この授業を受けた後にクラスメイトからカミングアウトされた生徒は、「もしこの授業がない別の学校だったら、いじめられていたよな」と話していたとか。こうした結果だけを見ても、若年期から性の多様性を理解し受け入れるうえで、いかに学校教育が重要なのかがわかる。

 文部科学省の「義務教育(学校教育)の意義・目的に関する提言」によると、学校教育とは「すべての国民に対して、その一生を通ずる人間形成の基礎として必要なものを共通に修得させるとともに、個人の特性の分化に応じて豊かな個性と社会性の発達を助長する、もっとも組織的・計画的な教育の制度」と位置づけられている。そうであるならば、個人のアイデンティティと切り離せない性的指向や性自認の知識こそ、学校教育を通して本質をとらえた学びの機会を設けることが急務ではないだろうか。
(末吉陽子)

最終更新:2016/06/06 15:00
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