GID学会レポート2

性同一性障害をカミングアウトする時 当事者と親が語る苦悩

2016/05/22 18:00

■新しい価値観を授けてもらえたことを感謝

 ただ、娘のカミングアウトをきっかけに性同一性障害について詳しく知るほど、世の中の多様な側面に気付かされたとAさんは話す。

「娘から渡された性同一性障害の関連本を読み漁り、わからないことは娘に聞くなどして理解しようと必死でした。そうしたことを通して、私はこれまで世の中の上っ面しか見てなかったんだなと思いいたりました。この世には男と女しかいないという大前提の中で生きてきて、それを疑ったことがなかったわけです。それはどうも違うらしいぞと知りました。

 それからしばらくして、娘に『性同一性障害の当事者集会があるから一緒に行かないか』と誘われて赴くことにしました。そこには、若い方からお年寄りまで、FTMの方が100人近く集まっていらっしゃったのですが、そういう方々とお会いするのは初めてなので、心臓がドキドキして目のやり場に困ってしまいました。しかし、皆さんの話を聞くなかで、本当に悩んでつらい思いをしていて、生きづらさや苦しさを抱えていて、中には言葉を失ってうずくまってしまう方もいらっしゃいました。その姿を見て、やっぱり胸がすごく痛みました。そして、その中に自分の子どももいるわけですから、心の底から『親が子どもを支えなくてどうする、私が守らなくちゃ』ということ、それだけは強く決意しました。私の中で当事者の方たちとの出会いは、それだけ劇的な出来事でした」

 その日を境に考え方が一転したというAさん。最後に「親にとって子どもが性同一性障害という事実は重いです」と本心を語った。

「親なら誰しも『どうしてうちの子が』と思うはずです。でも、ある時、娘が『きっと何か意味があるんだよ』と言ったことがありました。私もそう思ったんです。子どもが自分のセクシュアリティとまっすぐに向き合って、葛藤はすごくあるでしょうが、地道に人生を歩んでいくなかで、その意味は見つかってくれるんじゃないかなと考えています。今、子どもは社会人としてたくましく働きながら生きています。そんな子どもが誇りですし、自分自身も新しい価値観を授けてもらえたことを感謝しています」

■毎日女の子の着ぐるみを着て生活している感じ

 現在、20歳の専門学生Mさん(FTM)は、6年前、中学2年生の時に初めて母親にカミングアウトした後、18歳で乳房の切除とホルモン治療を実施したという。母親のKさんとともに登壇し、それぞれの立場からカミングアウト当時のエピソードが語られた。

「中学2年生の時、周りの友人が恋人を作りはじめるなか、何の違和感もなく女の子を好きになり、初めて女性のパートナーができました。毎日女の子の着ぐるみを着て生活しているという感じはありましたが、自分が同性愛者でレズビアンだとか、性同一性障害だとは考えたこともありませんでした。女の子を好きになること自体もおかしいと思うことはなくて、自分が普通だと思っていました」(Mさん)

 当時を「幸せな学校生活を送っていた」と振り返るMさんだが、女の子と付き合っていることが、学校や地域でうわさになりはじめたことで、気持ちにも少しずつ変化が生じるようになったという。

「自分が女の子と付き合っているという話が母の耳に入ったようで、ある日、母からメールが来ました。『女の子として女の子が好きなの?』という一文でしたが、自分は『違う』と返信しました。続いて『男の子として女の子が好きなの?』という質問が来ましたが、当時、自分が男性だと言い切れなかったのですが、自分が女性であるということが嫌なのは確かで、女性であることを受け入れられなかったので、『うん』とだけ返事をしました。今考えれば、これが初めてのカミングアウトだったと思います」

 それからも母親のKさんとメールでのやり取りが続くうちに、「親友として好きなんじゃないの?」と否定的なことを言われたMさんは、自分は人と違って悪いことをしているのかなと思うようになったという。

「周りの皆が普通に生活して恋愛しているなかで、自分だけが思い通りにならなくて、正直消えたいなと考えることもありました。ただ、当時はカミングアウトされた親の気持ちは1ミリも考えていませんでした。とにかく自分の『好き』という気持ちを否定されたことが、悲しかったし苦しかったし腹が立っていました」

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