『ドロメ』内藤瑛亮監督インタビュー

「マッチョイズムとか気持ち悪い」『ドロメ』内藤瑛亮監督に聞く、女子と男子とおじさんの自意識

2016/04/11 17:00
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(C)2016「ドロメ」製作委員会

――おじさんや男に対する観察眼だけでなく、女子の計算高さを揶揄するようなシーンもありましたよね。

内藤 女の子たちが稽古前に着替えている時のガールズトークで、ジャージの下に洋楽アーティストのTシャツを着ている子に「あざといね」と言い合うシーンがそうですね。女の子がロックバンドのTシャツを着ていたり、古い映画を見にいったりすると、おっさんがテンション高く食いつくじゃないですか。「君、わかってるね。だから信頼できる」みたいな。そういう構図がすごく嫌で(笑)。“釣り”に来る女の子も、いざ話してみると音楽や映画について全然詳しくなかったりする。釣る方も釣る方だけど、釣られるなよと思うんです。

 劇中で稽古着をジャージにしたのも、オシャレをしているとどうしてもその人の自意識を感じてしまうし、制服は記号として出すぎていて好きではなくて。制服や私服でオシャレしているよりも、機能性を求めて決められたジャージ姿の方が、素っぽくて可愛さが見えてくると思います。

――颯汰の母親は、息子が女子に近づくことや、友達同士の下ネタも禁止する女性でしたが、そういった母親像はどこから出てきたのでしょうか?

内藤 ベースは漫画『惡の華』(講談社)の作者である押見修造さんの実体験なんです。押見さんのお母さんは、昔から息子に対して支配的で、自分が望まないことはしてほしくないタイプだったそうで。学生時代に押見さんが唯一仲の良かった、クラスの女の子との仲を、お母さんが無理やり離してしまったんです。それ以来、彼女とは疎遠になってしまい、押見さんは「自分のせいで、あの子は孤独になったんじゃないか」と気にし続けてしまう。『惡の華』にまさしくそういう女の子が出てくるんですけど、彼は「唯一の理解者が僕だったのに、彼女を見捨ててしまった」ということを作品で延々と描いているんです。それを、今回は「男子篇」の主人公・颯汰のトラウマとして描こうと思いました。

■「セックスって気持ち悪いよね」がショックだった

――颯汰の母親は、性的なものを嫌悪しているようでした。『先生を流産させる会』でも女生徒の性嫌悪が描かれましたね。

内藤 僕が中学生の時、クラスの男子はエロいことに興味津々なのに、女の子2人が「セックスって気持ち悪いよね。あれで私たちが生まれたとか、本当考えたくない」と話していたのが聞こえて。ショックでありつつ目から鱗だったんです。あれはどういう意味だったんだろうとか、気持ち悪いってどういうことだろうって。

――それについて、監督なりの答えは出ましたか?

内藤 大学時代の友達で、性に対して強く嫌悪していた女の子が、1年後くらいに「もう全然平気なんだよね」と言っていたんですが、克服した理由を聞くと特になかった。明確な理由がなくても切り替わるものだということにリアリティを感じました。

 これをおっさんの監督が描くと、“清純から堕ちた女”みたいに変なドラマとして作ってしまうかもしれないですよね(笑)。でも、実際はそんなに重たいものでもなく、曖昧なんだなと思いましたし、明確にはわからないことだからこそ興味があります。

――今後、女性と男性をテーマに作品をやるとしたらどんな内容にしたいですか?

内藤 いま女性が社会進出していると言いつつも、なんだかんだ男性社会ですよね。どの世界もおっさんがいつもしょうもない決断をしているなとは思っていて。そういうおっさんと、それを倒す女性は描きたいです。昔から、ホラー映画の中で強い女性に倒される怪物やモンスターの方に感情移入していて、自分が女性に倒されたいという気持ちがあるんです。どうしようもない男を女性がボッコボコに倒す話をやりたいですね(笑)。
(石狩ジュンコ)

『ドロメ』
来年から共学に統合されることが決まっている、男子高・泥打高校と女子高・紫蘭高校。両校の演劇部の合同合宿が男子高で始まったが、次々と奇妙な出来事が起こり、そしてそれは昔から村に言い伝えられている“ドロメ”の仕業であることが判明していく……。
シネマート新宿ほか、全国順次公開
公式サイト

最終更新:2016/04/11 17:53
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