映画レビュー[親子でもなく姉妹でもなく]

自分の“正しさ”へ導く女×拒む若い女――女の上下関係から見る『モナリザ・スマイル』

2016/02/29 21:00

◎「結婚と仕事の両立は無理」と決断するジョーン
 2人目は、ベティの親友ジョーン(ジュリア・スタイルズ)。成績優秀で各種サークルのリーダーを務め、全方位でそつのない優等生だ。キャサリンから美術史の成績にCを付けられて抗議に行くも、理由を納得すれば書き直して再提出しようとする聡明さとガッツもある。一方で、ハーバード大の恋人・トミーからのプロポーズを待ちこがれている。真面目ないい子だけに、卒業したら家庭に入るという道は疑っていない。

 しかし次第にキャサリンから刺激を受け、彼女に背中を押されてイェール大学大学院の法科を受験し合格、将来は結婚と仕事の両立を目指そうという思いを抱き始める。ジェンダー規範に縛られた学生が多い中、キャサリンが「この子は自分で決めた道を切り開いていくのではないか」という強い期待をジョーンにかけたのは当然だろう。

 だから、トミーがフィラデルフィアの大学院に進学し、彼女もイェールを捨てて彼について行くことになったと知った時の、キャサリンの驚きと焦りは大きい。だが、学問をあきらめるな、家庭と両立できると説くキャサリンにジョーンは、「両立は無理。自分で決めろと言うなら、これが自分で決めたこと」と冷静に返す。あきらめて彼女の結婚を祝福しつつも、キャサリンの胸には落胆が広がる。

 正しい教育をしてきたと信じているキャサリン。しかし自分が仕事と恋愛の両立に失敗しているのに、教え子に学問と家庭は両立できると言うのは矛盾ではないだろうか。さらに、「先生の言う“妻”は“魂を売り渡した女”」とのジョーンの指摘は胸に刺さったはずだ。一方の考え方を啓蒙したいがあまり、もう一方を知らず知らず貶める、そういう話法に学生は敏感である。それが自分たち女性の生き方に関わるものであれば、なおさらだ。

◎上の人間が持つ「正しさ」の驕り
 キャサリンに接近してくるイタリア語の教師・ビルは、「君はいつも自分の価値観を人に押しつけている」と言った。通常の人間関係はともかく、教育は一種の押しつけではある。だがそこに、“自分の正しさを確信する”年上の女から年下の女への優越や無意識の支配欲が滲んだ時は、当然ながら反発を呼び、背を向けられる。人の心のドアを開けさせるには、正しさより寛容さが必要なことは多い。

 母親の価値観から脱却して、自分の道を模索し始めたベティ(この物語は文筆家となったベティの回想で綴られている)。刺激を受けた教師の期待には応えず、家庭に入ったジョーン。女性の生き方として結果は真逆に見えても、年上の女の思惑通りには生きたくない、自分で決めたいという心理としては同じなのだ。

 卒業間近の学生たちが、それぞれ自由に描いたひまわりの絵を通して「私たちは何かのコピーではなく自分の道を歩んでいきます」というメッセージを表明したことで、キャサリンは「私の進むべき道は?」という命題に突き当たる。ラスト、欧州で美術史の勉強をやり直すため大学を辞して車で去っていくキャサリンを、卒業式の学士姿をしたベティやジョーンたちが自転車で追うシーンは美しい。

 教師の価値観が生徒に全面的に受け入れられることはない。教育の現場で両者はしばしばすれ違う。だが歳を重ねても挑戦し続ける先達の姿は、後を追う女性を勇気づける。いつか追いつき追い越すよ! という若い彼女たちのエネルギーが、教える者である年上の女への褒美だ。
(絵・文/大野左紀子)

大野左紀子(おおの・さきこ)
1959年生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻家卒業。2002年までアーティスト活動を行う。現在は名古屋芸術大学、京都造形芸術大学非常勤講師。著書に『アーティスト症候群』(明治書院)『「女」が邪魔をする』(光文社)など。近著は『あなたたちはあちら、わたしはこちら』(大洋図書)。
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最終更新:2019/05/21 16:52
『正しさとは何か (Thinking about Trurh and Justice.)』
正しさを叫んでも変わらないときは、周りの人を見てみて

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