精神保健福祉士・斉藤章佳氏インタビュー

これ以上、性犯罪被害者を出さないために 加害者の治療と家族の役割

2016/02/22 15:00
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御徒町榎本クリニックの斉藤章佳氏

 昨今、有名人が相次いで逮捕されたり、痴漢抑止バッジが作成されたりと、性犯罪に関する話題が盛んに報道されているが、性犯罪において、女性は主に「被害者」である。たとえば、「犯罪白書」によると、平成26年の強制わいせつ認知件数の男女比は、約34:1。男性から女性に加えられる理不尽このうえない暴力であり、被害者に与えるダメージは甚大で、「魂の殺人」ともいわれる性犯罪。その発生件数を少しでも減らしたいとは誰もが願うところだが、性犯罪は「未然に防ぎにくい」という側面がある。逮捕されるまで、家族を含む周囲の誰もが気づかない。本人も自分を止められない。そうして犯行は繰り返され、被害者が増えていく。

「これ以上の被害者を出さないために、私たちがいまできるのは『再犯防止』。これに尽きます」と言い切るのは、東京・御徒町榎本クリニックの精神保健福祉士・社会福祉士である斉藤章佳氏。これまでさまざまな依存症治療に携わり、現在は性依存症の治療、主に性犯罪加害者を対象とした再犯防止プログラムに注力している。性犯罪加害者とはどういう人間で、どうしたらその犯行を止められるのか。また、もし家族が加害者となった場合には何ができるのか。斉藤氏に聞いた。

■性犯罪加害者の多くは、ごく普通に社会生活を営んでいる

――性犯罪加害者とは、そもそもどういう人間なのでしょう?

斉藤章佳氏(以下、斉藤) 性犯罪とひと口にいっても、多種多様です。盗撮や下着窃盗、露出のような非接触型から、痴漢、小児性暴力、傷害や殺人事件にも発展する強姦まで幅広いため一概にいうのは難しいのですが、共通しているのは加害者にとって学習された行動であり、「ストレス(心理的苦痛や不安)の対処行動」である点です。

 過去に虐待を受けたとか、自分が性犯罪被害者だったとか、そうしたストーリーによって性犯罪を理解しようとする人もいますが、生育歴上に大きな問題を抱えているのは性犯罪者のうち少数派です。社会で生きていると、誰もがストレスを感じます。多くの人がそれをお酒やカラオケ、スポーツなどで発散しますが、彼らは性的逸脱行動で対処しようとするのが大きな特徴です。

――ムラムラしてやったとか、性欲が強すぎて犯行に走ったとかではないのですね。

斉藤 このようなケースがあります。上司にひどく叱られて自尊心が大きく傷ついているとき、通勤電車でたまたま女性の胸にヒジが当たった。そのとき性的な興奮を覚えると、彼らはスッとするといいます。性的接触は、ある特定の人にとってはその傷ついた自尊感情を緩和する効果があります。これをくり返すためには、本人にとって合理的な理由づけが必要になります。たとえば被害者が抵抗しなければ、「実は相手も望んでいるし、喜んでいるのではないか」と考えるようになり、これを反復することで「認知の歪み」を形成し、強化していきます。

 当院を受診する性犯罪加害者の多くは、ごく普通に社会生活を営んでいます。学歴もあり、社会的地位もそれなりに高く、結婚生活も順調、子どもからはいいお父さんと思われている人たちです。これだけストレスの多い社会で生活していると、誰もが加害者になる可能性を秘めているといってもいいでしょう。痴漢や盗撮などの性犯罪は日本において特に多く見られる性犯罪といわれています。当院でも、年々その受診者数が増えていますし、これからも増えつづけると見ています。

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