吉本興業女マネージャー奮戦記「そんなアホな!」』著者インタビュー

“男社会”だった吉本興業の伝説的女性マネジャーが語る、セクハラ・パワハラと女の媚

2016/02/11 20:45
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著者の大谷由里子氏

 社員数約650人、タレント数約6000人といわれる吉本興業株式会社(2015年9月時点)。その吉本がまだ30人程度の社員しかいなかった1984年、史上3人目の女性社員として新卒入社し、「泥酔してテレビ番組に出演した横山やすしを裏で殴った」「今いくよ・くるよの事務所に1年間タダ下宿していた」といった伝説が、今なお語り継がれているマネジャーが大谷由里子さんだ。現在、大谷さんは吉本を退社し、社会人向け人材育成学校「リーダーズカレッジ」を立ち上げ、研修会社「志縁塾」を開校。吉本で培った経験を糧に、「笑い」をテーマにしたユニークな人材育成法を用いて、全国各地で講演活動なども行っている。

 そんな大谷さんの96年刊の著書『吉本興業女マネージャー奮戦記「そんなアホな!」』(扶桑社)が、立東舎から今回文庫として刊行された。「ブラック企業」などという言葉がまだ存在しない時代、昭和の漫才ブームの真っただ中、1人の女性マネジャーが3年後に寿退社するまでに経験した強烈エピソードの数々と、それらを通して仕事に夢を持つ意義を綴った1冊だ。男女雇用機会均等法が施行される前の当時、完全に男社会だった吉本における業務は読んでいても「そんなアホな!」と言いたくなることばかり。今回は大谷さんに、20代前半に吉本で経験した出来事や、会社における新人女性についてお話を伺った。

――20年前に刊行してから、朝日新聞出版で文庫化、そして今回で3回目の刊行とのことですが、ご自身では本書のどういった点が長らく支持されていると思いますか。

大谷由里子氏(以下、大谷) 若い頃にしんどいことを経験しておくとその後の伸びしろはすごい、ということが一番響くのかな。右も左もわからない新入社員の仕事の覚え方や、成長の仕方がよくわかるという感想が多いですね。ただ本に書いてあるのは、スーパーブラック企業の見本のような当時の吉本なので今はこの通りでもないし、こうやれというものでも決してないので(笑)。当時、私はやすしさんの愛人リスト管理もさせられていましたから、今だったらセクハラ、パワハラと十分に思われますよね。

――本の中では、入社してすぐ「君がハズレ社員か。最終選考でお前と美人で頭が良い女性の2人が残ったのにお前が選ばれたんやな」とプロデューサーに言われたことが書かれていますよね。そういう言葉を投げられてもセクハラ、パワハラとは思わなかったのでしょうか。

大谷 いじられることに抵抗がなかったので、そういう言葉は逆においしいなと思っていましたね。その言葉を聞いてから「どうもハズレ社員です!」と挨拶に使っていたくらいでした。今は、その男性上司のことが嫌いだから、何をされてもセクハラ、パワハラと受け取るのでしょう。だからこれだけ問題になっている。結局、会社や会社の人たちを好きになればコミュニケーションとしてOKなのかなと思うんです。

 現社長で当時上司だった大崎洋さんも最初は怖くて嫌いでしたけど、仕事をしていく中で自分は愛されているなと実感していましたし、何よりも吉本が好きでしたから。大崎さんに当時言われたことを私も今若い人に伝えたいのです。「仕事に夢を持て」と。どうせ仕事するんやったら少しくらいしんどくてもいい仕事をするべきです。

――大谷さんは3年間マネジャー職を務め、25歳の時に吉本を寿退社されています。当時の激務の中でどのように恋愛されていたのでしょう。

大谷 相手もスポーツ新聞の記者だったので、夜中に仕事が終わってからデートしていました。朝6時くらいに帰ってそのまま仕事に行っていました。20代だから体力がありましたし、当時はやっぱり時代のムードも相まって男女ともに恋も仕事も手に入れようとする熱量がすごかったですよね。だから今、20代で仕事も結婚もしたかったら、体力があるうちにがむしゃらに動くべきです。20代でやらなかったらいつやんねん! と。それに、年齢問わず成功している社長や経営者、売れているタレントってみんな体力がありますよ。マネジメントや仕事術などいろいろありますが、やっぱり根本は体力やなあと。

『吉本興業女マネージャー奮戦記「そんなアホな! 」 (立東舎文庫)』
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