[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」1月26日号

誰もが自分語りしたくなる……「婦人公論」100年の秘訣は女たちに与えてきた“ヒロイン感”

2016/01/20 14:45

 切れた徳を再び積むことを「積善」と呼び、具体的な積善方法が後半たっぷりと語られております。「1日1回、自分に向かって『大好き』と声をかけ、心の底から愛してあげましょう」「毎日1回はお米を食べること」「身だしなみに気を配る」「身の回りの空間や持ち物を清めましょう」などなど。さらにそれらがんばって積んだ善といつのまにか積んでしまった悪は、「貯徳ノート」に記載してポイント換算。例えば自分大好きとつぶやいて1ポイント、しかし他人の悪口やウワサ話をしてマイナス3ポイント……というように。「せっかく貯まった積善ポイントを減らすダメ行動」一覧を見ると、「グチを言う」「コンビニの弁当やインスタント食品などを常食する」「ムダ遣いをする」「トイレの便座のふたを開けっぱなしにする」などが並んでおり、とてもじゃありませんが50代まで徳が持つとは思えません。20代半ばで枯渇してますよ!

■自分語りの場としての「婦人公論」

 続きまして巻末の小特集「『婦人公論』100周年に寄せて」。あさのあつこ、大竹しのぶ、氷川きよし、林真理子らからのお祝いのコメントが届いています。

 お祝いのコメントと見せかけて自分のことだけ語る人、100年という時の流れに思いを馳せながら自分のことだけ語る人など、それぞれのやり方で「婦人公論」100周年を祝っています。しかしそれこそ「婦人公論」という雑誌が1世紀という歳月を生き残ってきた証しとも言えます。「婦人公論」の名のもとに、誰もが自分のことを話したくなる。超有名人から市井の人たちまで、個人的な事案を「女」全体の問題として語り上げることができる雑誌こそ「婦人公論」。

 そのことを的確に表現しているのが、作家のあさの。「読者のみなさんは、(読者体験)手記を読んで嫌な気持ちになることがあるかもしれません。他人の強靭な人生を読むことで、『自分はこうあるべき』という基準が揺らぐから」。「婦人公論」が嫁姑や不倫、女の性など“終わらない自分語り”を決して断罪することなく熟成させてきたことが、この雑誌に独特の臭みを与えてきたのでしょう。また「女性の内側や内面は、これまで社会のなかでは些細なことだと軽んじられてきました。ですが女性の本音は、男性の建て前よりずっと強靭」というあさの。

 この「女性の本音」という点について、林はこう言及しています。「今や『婦人公論』は雑誌版『徹子の部屋』となった。芸能マスコミには頑なに口を閉ざす人も、『婦人公論』には離婚や闘病の事実を語る。何かスキャンダルが起こると『婦人公論』にだけ語るのが定番となった(中略)いかに芸能人、有名人に信頼されているかよくわかる」。断罪されない安心感が女の本音を引き出し、ヒロインという立場を与えてくれる「婦人公論」。そして主人公になれるのは、自由で大胆な女より、モラルを強く意識しながらも、ついそのラインを踏み越えてしまった危うい女であるということを忘れてはなりません。自分もいつかそのラインを越えてしまうかも、と思わせるところに「婦人公論」独特の共感が生まれるのですよ。「あぁ私、貯徳を消費してるわ……」という甘美な罪悪感とともに。

 と、つらつら語ってしまいましたが、とにかくめでたい100周年。最後はこの方「婦人公論」三種の神器、氷川きよしのコメントで締めましょう。「僕がここまで歩んでこられたのも、ファンの皆さんの応援あってのこと(中略)毎年ファンの方々が僕の誕生日を祝って、プレゼントをたくさんくださる。でも、皆さんにお礼の手紙を書くこともできないし、いつも申し訳なく思っていました。そこで今回特別に曲を作ってもらい、『皆さん、生まれてきてくれてありがとうございます』というメッセージをお伝えすることにしたのです」。ファンへの感謝の気持ちを伝えていると思いきや、ニューアルバムの宣伝やないかい! きよし、レバレッジを利かせて自らの徳を増やす男。
(西澤千央)

最終更新:2016/01/20 14:46
婦人公論 2016年 1/26 号 [雑誌]
きよし、ファンレターに返信すればいいだけじゃん!
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