[連載]海外ドラマの向こうガワ

コスチュームドラマ『ダウントン・アビー』のヒット要因は、イギリスに今なお残る「見えない階級」!?

2016/01/30 17:00

 一方の使用人たちは、住む世界は異なるものの、貴族たちの生活を支える仕事にプライドを持ち、緊張感漂う中で働いていた。彼らの中にも厳しい上下関係があり、いじめが頻繁に行われていたことがドラマでは再現されている。また、女中が自立心を持つようになったり、一家の末娘が女性の権利に目覚めたり、時代の動きを感じるシーンも登場する。このように、ドタバタする使用人たちに共感しつつ、一昔前の貴族たちの苦悩を覗き見できるとあって、作品はたちまち大ヒットした。

 歴史ドラマに必要不可欠な小道具も、小物に至るまで高級な作りになっている。また、女性のヘアスタイルを見事に再現していると高く評価され、エミー賞のヘアスタイル賞を受賞。このように小道具で徹底したリアリティ感を出している点は、視聴者獲得において重要な鍵となっているといえよう。

 今現在でも、イギリスには「見えない階級」がある。いわゆる「上流階級」「中流階級」「労働階級」で、話し方や立ち居振る舞い、読む新聞などで、彼らの「階級」がわかるともいわれているのだ。あからさまな差別はないが、「上流階級」には彼らだけのコミュニティがあり、教養やマナーが求められる。職業の選択や結婚など、逃れることのできない「上流階級」としての運命もある。「中流階級」「労働階級」はその点気楽で、「上流階級」の人たちのゴシップに花を咲かせることもできるし、努力次第で成功を収めることもできる。

 『ダウントン・アビー』が大ヒットとなったのは、シーズンを通して「上流階級」の貴族たちが没落しないように必死に奮闘する様子をリアルに描いていたからだろう。絶対的であった一昔前の「階級」が、どのように変化していったのか。また、なぜ今も「見えない階級」があるのか、このドラマは現代のイギリス人にわかりやすく、そして共感しやすく説明してくれるのだ。

 ドラマはシーズン6で完結したが、世界的な大ヒットとなったため、スピンオフ映画の製作も期待されている。それほどまでにイギリス人をとりこにしたコスチュームドラマ『ダウントン・アビー』。ぜひ、本作で“知られざるイギリス”を感じてほしい。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国→台湾を経て、現在は日本に帰国。数年後に来るだろう海外生活を前に、日本での生活を満喫中。

最終更新:2016/01/30 17:00
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フィクションにおける「身分格差」の求心力は凄まじいからね
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