[連載]海外ドラマの向こうガワ

コスチュームドラマ『ダウントン・アビー』のヒット要因は、イギリスに今なお残る「見えない階級」!?

2016/01/30 17:00
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『ダウントン・アビー ブルーレイBOX [Blu-ray]』/NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが、新旧さまざまな作品のディテールから文化論を引きずり出す!

 イギリスはアメリカと比べると国としての長い歴史があるため、これまで数多くの大河ドラマが制作されてきた。18世紀の田舎町を舞台とした『高慢と偏見』(1995)、ヴィクトリア朝を舞台とした遺産相続絡みのミステリー『Bleak House』(2005)、エドワード朝から第一次世界大戦後までを舞台に恋愛と戦争を描いたドラマ『パレーズ・エンド』(2012)。近隣国を舞台にした歴史ドラマも多く、ローマ皇帝が主人公の歴史小説『この私、クラウディウス』(1976)は名作として語り継がれているし、トルストイの小説をドラマ化した『戦争と平和』も今年に入って放送が開始され、早くも高視聴率番組の仲間入りをしている。

 そんな英国歴史ドラマの中で特に人気があるのが、衣装で時代を特定でき、階級制度が色濃く反映されている「コスチュームドラマ」というジャンル。優雅だけれど人間関係に悩む上流階級の人たちと、せっせと働きながら彼らに仕える労働階級の使用人との「階級」がはっきりとわかれている作品が特に好まれる。上流階級の頂点は英国王室であるが、イギリス人たちは王室ゴシップが大好き。「コスチュームドラマ」は、そんな彼らの「上流階級」を覗き見したいという願望を満たし、憧れの世界に浸らせてくれるからこそ、根強い人気を誇るのだ。

 2010年9月、第一次世界大戦後の貴族たちと、彼らに仕える使用人の暮らしを描いた歴史ドラマが放送開始された。日本で「貴族とメイドと相続人」「華麗なる英国貴族の館」というサブタイトルがつけられた、『ダウントン・アビー』である。

 物語の舞台は20世紀初頭のイギリス。郊外にある大邸宅ダウントン・アビーに住む貴族のグランサム伯爵一家には、三姉妹がいるが、法律により男系男子一人だけしか家督を相続できない。子孫に財産と爵位を継がせるために、長女は、相続人である父方のいとこの一人息子と婚約。これで一家は安泰かと思いきや、いとこと一人息子が乗っていたタイタニック号が沈没してしまい、2人とも亡くなってしまった。

 グランサム伯爵一家は、次の相続人である遠縁の青年弁護士を呼び寄せるのだが、彼は中流階級出身のために貴族の暮らしになじめず、なにかと反発。ー家の実質的な支配者である祖母は青年を「よそ者」と見なし、財産を相続させないようにと策略を巡らすようになる。その一方で、ダウントン・アビーの使用人たちの間でも、主人が呼び寄せた軍人あがりの新しい伯爵付従者に反発。陰険な嫌がらせをするようになる。

 この時代の貴族たちは、都会から離れた田舎の大邸宅の中で、貴族文化と格式をかたくなに守りながら生きていた。大勢の使用人に囲まれ、些細なことまで使用人にしてもらうのは気持ちがよいようにも思えるが、常に貴族らしく振る舞わねばならず、このドラマでも、貴族たちが一時も気を緩めずに張りつめた生活をしていた様子が描かれている。

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フィクションにおける「身分格差」の求心力は凄まじいからね
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