2015年まんが界事件簿【2】

2015年まんが界事件簿――【峰なゆか『アラサーちゃん』騒動】が知らしめたこと

2015/12/31 17:00

◎峰氏が「オマージュ」作品を発表
 第2ラウンドは意外なところから火の手が上がりました。季節は移ろい11月、TwitterやLGBTのためのコミュニティサイト「2CHOPO」で人気を博していた『きょうのゲイバー』の作者であるTSUKURU先生が、峰なゆか氏の『アラサーちゃん』(扶桑社)にネタを盗作されたと言うのです。Twitterにはさっそく比較画像が出回り、その余りの類似性にすぐさま炎上いたしました。

 およそ10日後、『アラサーちゃん』の掲載誌である「週刊SPA!」11月24日号(扶桑社)誌上に、編集部の謝罪文が掲載されました。いわく、「当該作品を拝読した峰なゆか先生が、オマージュ的に当該作品を踏まえたうえで、さらに展開を加える形で4コマ化しており、編集部としては新たな作品として成立していると判断いたしましたが、TSUKURU先生に対して配慮を欠き、不快な思いをさせてしまったことを真摯に受け止め、改めてお詫び申し上げます」とのこと。まさかの「オマージュ」! そして意外にもすんなりと剽窃を認めてしまったのでした。

 しかしこれは飽くまでも編集部からの謝罪文です。張本人の峰氏はと言いますと、しばらくはおとなしくしていたものの、今は元気にお得意のTwitterで絶賛広報活動中です。数多の罵詈雑言を投げつけられながらも、今日に至るまで謝罪をする気配はさっぱりなく、のうのうと活動していられるその図太さだけはさすがであります。

◎問題の本質は「盗作云々」ではない
 いまだに勘違いしている人がいるようなので改めて説明いたしますが、本件においては盗作か/盗作でないかはさして問題ではありません。今日、ネタのかぶりなんぞは言い始めたらきりがなく、もちろんアイデアのオリジナリティは尊重されるべきではありますが、二番煎じにはそれなりの厳しい評価で以て応えればよいだけの話であります。もちろん二番煎じだろうが三番煎じだろうが、おもしろければ評価すべきですし、つまらなければ唾棄するだけです。

 問題の本質は「パクリだと言いがかりをつけて数の力で追い込めば人様の連載を終わらせることすらできるという地獄絵図」を2度とくり返さないことでありました。この手法が正当性を獲得してしまった場合、おそらく99%のマンガ作品に同様の言いがかりをつけることができます。大半は毅然とした態度でそれらをさくっと退けるでしょうが、しかし中には田所先生のようなケースも確実に出てくることでしょう。言うまでもなくそれは誰にとっても息苦しい事態です。

 そして実際、第2ラウンドでは当の峰氏がこの「息苦しい事態」に嵌まったのです。峰氏の作品に関しても、本来ならば「もしかしたらパクっちゃったのかな? でも確証はないし、モヤモヤするけどまあいいか……」程度で終わるところが、かつて田所先生の作品に「パクリ」の汚名を着せ、連載終了にまで追い込んだ“前科”があったばっかりに、徹底的に追及される羽目に陥ってしまったのです。これには誰もまったく同情できません。

 この騒動を見た者はみな、盗作云々を過剰に追及することは不毛であると思い知るべきです。そしてもちろんいかなる理由であろうとも、SNS等で圧力をかけて、人の連載を終了に追い込むなど論外であります。田所先生は『コトコトくどかれ飯』が商業デビュー長編作となるはずでした。こうした悲劇は2度とくり返してはなりません。抗議ならば正当なルートで申し出るべきですし、全ては作品に対する評価・評論といった形に反映されるべきものです。

『アラサーちゃん (ダ・ヴィンチブックス)』
こうして孤立していくだけの峰氏であった
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