[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」10月27日号

「婦人公論」ひとり暮らし特集に響く、「モラハラ夫の呪縛」と「解放後」に苦しむ女たちの悲鳴

2015/10/19 21:00

 長らく「“奥方”である私は家を守り、世継ぎを生み育て、義母の面倒を見るのが当たり前。(中略)『男の仕事や生き方に口を出すのはけしからん』『側室くらいは大目にみろ』という考えの持ち主」である夫に「マインドコントロールされていた」という幸子氏。しかしモラハラやパワハラなどという言葉もない時代、浮気も甘んじて受け止め、義親を看取り、子どもと父親の調整役を務め、夫の社会的地位を汚さぬように生きてきた妻による結婚50年目の反乱は、病気や“ビョーキ”だけが引き起こしたものではないような気がするのです。そこでふと頭を過る大石静の言葉。妻のたった1つの拠り所であった“国家を守るたくましい夫”という像。そのキラキラを老いが奪い去り、「私はなぜこの人と結婚したんだろう? と訳がわからなくなる」状態へと陥ってしまったのではないかと。

■「私が家庭を守ったおかげで得た金だ」で押し通すべし

 独立宣言後の幸子氏ですが、今度はタイプの違う悩みに苛まれるようになります。夫からのマインドコントロールが解け、介護から解放されると「これまで自分を支えてきた価値観を見失い、『私の人生は何だったのか』という後悔にとらわれて……」。息を吸うのもツライ閉塞感に襲われるようになったそうです。モラハラやパワハラは気づいてしまえば地獄のような日々が待っています。もしかして一生気づかなければ幸せだったのかも……なんていうことも。「読者体験手記 私の自由を奪う、わが家の定年夫」を読むと、幸子氏のようなケースは世の中にゴロゴロしていると痛感させられます。

 ドケチなんてものじゃない、行き過ぎた経済的モラハラに悩まされ続ける62歳主婦の場合。公務員だった夫が、家のお金をすべてコントロール。自由になるお金はほとんどなく「自分の分の年金を繰り上げて受給しようと考えた。しかし夫は猛反対。(中略)結局『ダメだダメだ。お前の年金だと言っても、オレが払ったオレの金だ。勝手なことするな!』とねじ伏せられてしまった」。もうちょっと、ねぇもうちょっと戦いましょう、奥さん……と思わずお昼のみのもんたが顔を出しそうになりますが、というのもこの夫は「定年後、週に何日かアルバイトをして、月に十数万円の給与をもらっている。しかし、そのお金は私には一銭も渡さない。以前から『退職したらもう家のためには働かない』と宣言していた通り、自由に働き、得たお金も一人で使っている」という横暴っぷり。おさんどんは妻に任せて、車にゴルフに飲み会にときままな定年ライフ、エエですのう。

 若い日々の暴飲暴食がたたって糖尿病、さらに賭け事での借金を抱えた夫と暮らす61歳主婦の場合。年金もパートで稼いだお金も全て借金返済に消え、さらには夫の介護、食事療法でヘトヘトの日々……それなのに「夫は一日中ひとりで、散歩にも行かず、食事のほかにせんべいやスナック菓子を食べ散らかして太るばかり。心配して注意すれば、嫌み、脅し、罵声が飛んでくる。(中略)仕方なく、今日もまた、夫の病院への送り迎えや、日帰り温泉に連れて行ってやったりなど、結局夫の言いなりになっているバカな自分」。さきの62歳主婦も「私が強く権利を主張できないのは、働いたことがなく、収入を夫に頼り切りだったからかもしれない。『オレが働いて得た退職金だ』『オレが払ってきた年金だ』と言われるとぐうの音も出ないのだ」と語っていました。

 この徹底的な自己評価の低さ。自分はここで生きていくしかないのだというあきらめ。61歳主婦の方が最後にまとめていた「あいつが大いばりしているのも私のおかげだと思えば、少しは溜飲が下がる気がする」という一文に、夫婦というものの奇怪さ、可笑しさが集約されているのではないでしょうか。幸子氏を閉塞感から救ったのも、とある先生から言われた「自分は佐々淳行を、戦後の日本社会を支えた重要人物だと捉えている。あなたはその悍馬のような男を50年以上支え続けた方で、僕は心から感謝したい」という言葉だったそう。自分を苦しめ続けた夫。しかしその苦しみに光を差すのもまた夫。やっぱり夫婦ってわかんねぇ……。
(西澤千央)

最終更新:2015/10/19 21:00
婦人公論 2015年 10/27 号 [雑誌]
佐々さん、私生活の危機管理がボロボロですけど?
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