『なんかおもしろいマンガ』あります ~女子マンガ月報~【8月】

『東京タラレバ娘』はなぜ、結婚できない=「自己責任!」と女子を追い詰める?

 しかし、『東京タラレバ娘』は一貫して自己責任論を説きます。女子会ばかりやっている、また「いい男がいない」等の文句ばかり言っているアラサー女性を徹底的に指弾し、「理想ばっか言うとらんで誰でもいいから相手見つけんか!!!」「言っとくが君らもう若くないんやから20代の頃みたいにゃ行かんど!!!」(1巻おまけマンガより)と檄を飛ばすのです。周囲の状況には一切の文句を言うことなく、つべこべ言わずにまずはお前! お前がお前をどうにかしろ!と、せき立てるのが『東京タラレバ娘』という作品の真骨頂。本作を本作たらしめている最重要ポイントであります。

 日本国憲法第25条は、「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と謳い上げます。それができないのであればそれは国の責任。じゃあ結婚できないのは? 東村先生は「それはお前のせいだ」と即答します。ここにおいて結婚は、もはや贅沢品・嗜好品、あるいはステータスやトロフィーに近い何かとなりました。つまり本作は結婚を「普通の幸せ」だとは捉えていないのです。人並み以上の努力の果てに手に入れるべきもの、勝ち取るべきスペシャルな何かであるところの結婚は、それは例えば『かくかくしかじか』(集英社)で主人公が希求した「美大に合格する」「マンガ家になる」といった夢と同レベルのものであるのです。

 アラサー女性に檄を飛ばしながらも東村先生は、彼女たちが容易には結婚できないこの現状をも描きます。そこにある内的な要因(女性側の原因)を、KEY(主人公たちと関係ある若手男性モデル)のセリフなどを通じてあぶり出す一方で、次々とやってくるダメ男たちはアラサー女性が結婚できない外的な要因の象徴であることでしょう。年齢や収入が自分よりも下にある女性を好むロリコン男ども、アラサー女性を食い物にする不倫男ども、独りよがりのマッチョ男ども……。わがままで幼稚なこれらの男どもの方がよほど未婚率の上昇に「貢献」しているのではないかと思うのですが、ところが東村先生は「それはそういうものだから仕方がない」と、ただそこに“在る者”として描きます。本作が批判するところの女子会においては、彼らの愚行こそが主な話題となるのですが、東村先生は意図的にさらりとスルーしているのです。

 この状況に対して理想主義者は、「まずは社会全体に蔓延する男尊女卑の風潮を是正せよ」「男ももっと家事をやれ」「子育てしやすい社会を」等と望むことでしょう。一方リアリストは、「まずは自分でできることをやろう。特に出産には事実上のタイムリミットもあるし」と割り切ります。東村先生は言うまでもなく後者であり、そのリアリズムが徹底しているからこそ、現在の売れっ子作家としての地位があり、そして『かくかくしかじか』や『東京タラレバ娘』のような作品も描けたわけです。

 目指すべきは革命家か成功者か。実はたいていの物事においてその2つのアプローチは両輪ではあるのですが、「結婚」という切実なテーマに対しては、なかなか悠長なことも言っていられません。非常にセンシティブな問題ではありますが、アラサー女性が結婚したいと願うのなら、まず必要とされているのは瞬発力です。東村先生が東京オリンピックの開催が決まった途端に、人並み外れた瞬発力で以てたちまちにこの連載を立ち上げたのは、なんとも象徴的ではあります。

(後編につづく)

小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題が欲しかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。

最終更新:2015/09/07 19:12
『東京タラレバ娘(3)』
作品を読んで女子会で意見交換、という無限ループ

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